プロローグ、エピローグを入れて全部で四幕の構成劇、約350句を納める。しかも、ほぼ書下ろし作品というから、愚生のような寡作、いや俳句を作らない俳人?にはいたく羨ましい力技である。
第一幕は「忠敬の一投足」(列島の形、なかなかいいじゃないか!)、第二幕は「無口な器」(-薔薇なら白の花束をーと言われ)、第三幕は「かぐや姫の38万㎞」(なんてことはない、これが最難関だよ!)、第四幕「北斎の一筆書」(漫画みたいなエピソード、らしい?)。
各章の題からもうかがわれるように、様々な意匠はこらされているのだが・・置かれた言葉通りに素直に読むのが一番と知りつつ、素直に読めない愚生などには、正直言って難解な部類に属する句群といえるかも知れない。
とはいえ、そんじょそこらに出蔓延っている多くの句集の退屈な風景とは違う景色であることは確かである。オールひらかな書きの句には惹かれた句が多かった。中でも一番印象に残ったのが、
かれはちすのみこむことばはくことば 久
であった。その他にも、
かもめいれかきまはしてもにがいふゆ
ゆるキャラのゆるのゆれをるはるのよる
さくらさくららららららとはやされて
ひがしきようとはきようとのひがしくものみね
やみくもにとりくもにいるくもせずに
うそつきはすみれたんぽぽせりなづな
いずれも悪い作品ではないが、「豈」同人というよしみもあって、少し辛口の憎まれ口をたたくと、何れも季語の斡旋が通常のレベルというか、予定調和の落ち着きを招いてしまっているのではなかろうか(ホッと安心はできるが)。ここは思い切って無季の階段を駆け上って、表現世界の飛躍を克ち取ってほしいと願うのである。
ともあれ、いくつかの句も紹介しておきたい。句集名にちなむ句は「心して」の措辞が惜しいかも・・。
心して神器に入れよ嘘と薔薇
家族みな写真に入り花筏
制服に油染みほか麦の秋
古着屋の喪服色なき風に揺る
原子炉が原爆ドーム目指し冬
漕艇部の波また浪を水馬
他界へはただ道なりに天高し
雪国へ夜行回転木馬かな
潮騒を讃へ神器に薔薇を挿せ
春昼を夢中になりし宙返り
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