2020年10月13日火曜日

花谷清「母の手より承けし笹舟みなみかぜ」(「藍」552号・花谷和子追悼号)・・


 「藍」552号(藍俳句会)は、花谷和子追悼号である。愚生が現代俳句協会で一期のみの役員をし、青年部だった頃、数回お会いしたことがある。充実の追悼で、花谷和子論は酒井佐忠「慈愛を秘めた精神」と谷口慎也「詩心一徹。綾なすこゝろ」。花谷清選「花谷和子の百句」とエッセイストでもあったので、「花谷和子のエッセイ」を数編。他に、同人、会員の追悼句、エッセイが収められている。その冒頭のエッセイ「金木犀」、師の草城を初めて訪ねた折のこと、


 (前略)先生は、桜色の紅潮した顔を、ベッドから向けられ、冗談を交えて話された。一会員にすぎない私の句をよく覚えていて下さって、(中略)

そして優しいまなざしを向けて、「女の人は成績にこだわって、誰々に負けたから、とか、出来なくなったから、と言って、すぐやめてしまう。どうか途中で休まないように」、といった意味のことをおっしゃった。

 私は、俳句をはじめて間もないひとに、草城先生のそのことを、いくたび繰り返して伝えたことだろう。その都度、自分自身へも、確かにいいきかせていいたのである。


   夕寒し木犀さらにときめく香

                   『花日記』所収(「経済要報」昭40・6)  


ともあれ、以下に百句選よりいくつか句を挙げておきたい。


   近づく雪国 座席で踊るハートのA      和子

   野に流す帽子のリボンわが晩夏

   いのちいま荒地野菊と花あそび

   さるをがせ霧のねむりの咎を負う

   窓にいま太陽生まる冬林檎

   声映すまで透きとおる五月の窓

   満月のほたるぶくろよ顔上げよ

   夢の続きの花ある夢や草城忌

   水つかう見えぬ花粉が夜も流れ

     長女廣瀬淳子

   紅葉山迫り子の骨拾うとは

   何かはじまる野の一点の鶏頭炎え 


花谷和子(はなたに・かずこ) 1922(大11)~2019(令元)、享年97。



           『攝津幸彦選集』(邑書林・本体1600円)↑

                                   

              



★閑話休題・・・攝津幸彦「国家よりワタクシ大事さくらんぼ」・・・・


 今日、10月13日は、攝津幸彦の命日である。享年49。24年が経つ。生きておれば、愚生より一歳上の兄貴で、73歳である。以下に、いくつかの句を挙げておこう。合掌。


  姉にあねもね一行二句の毛はなりぬ

  千年やそよぐ美貌の夏帽子

  南浦和のダリヤを仮りのあはれとす

  幾千代も散るは美し明日は三越

  南国に死して御恩のみなみかぜ

  物干しに美しき知事垂れてをり

  淋しさを許せばからだに当る鯛

  階段を濡らして昼が来てゐたり

  日輪のわけても行進曲(マーチ)淋しけれ

  野を帰る父のひとりは化粧して

  路地裏を金魚と思ふ夜汽車かな



攝津幸彦(せっつ・ゆきひこ) 1947~1996年、兵庫県養父郡生まれ。



芽夢野うのき「ハナミズキ実となり虚空へとこぼれ」↑

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