「藍」552号(藍俳句会)は、花谷和子追悼号である。愚生が現代俳句協会で一期のみの役員をし、青年部だった頃、数回お会いしたことがある。充実の追悼で、花谷和子論は酒井佐忠「慈愛を秘めた精神」と谷口慎也「詩心一徹。綾なすこゝろ」。花谷清選「花谷和子の百句」とエッセイストでもあったので、「花谷和子のエッセイ」を数編。他に、同人、会員の追悼句、エッセイが収められている。その冒頭のエッセイ「金木犀」、師の草城を初めて訪ねた折のこと、
(前略)先生は、桜色の紅潮した顔を、ベッドから向けられ、冗談を交えて話された。一会員にすぎない私の句をよく覚えていて下さって、(中略)
そして優しいまなざしを向けて、「女の人は成績にこだわって、誰々に負けたから、とか、出来なくなったから、と言って、すぐやめてしまう。どうか途中で休まないように」、といった意味のことをおっしゃった。
私は、俳句をはじめて間もないひとに、草城先生のそのことを、いくたび繰り返して伝えたことだろう。その都度、自分自身へも、確かにいいきかせていいたのである。
夕寒し木犀さらにときめく香
『花日記』所収(「経済要報」昭40・6)
ともあれ、以下に百句選よりいくつか句を挙げておきたい。
近づく雪国 座席で踊るハートのA 和子
野に流す帽子のリボンわが晩夏
いのちいま荒地野菊と花あそび
さるをがせ霧のねむりの咎を負う
窓にいま太陽生まる冬林檎
声映すまで透きとおる五月の窓
満月のほたるぶくろよ顔上げよ
夢の続きの花ある夢や草城忌
水つかう見えぬ花粉が夜も流れ
長女廣瀬淳子
紅葉山迫り子の骨拾うとは
何かはじまる野の一点の鶏頭炎え
花谷和子(はなたに・かずこ) 1922(大11)~2019(令元)、享年97。
★閑話休題・・・攝津幸彦「国家よりワタクシ大事さくらんぼ」・・・・
今日、10月13日は、攝津幸彦の命日である。享年49。24年が経つ。生きておれば、愚生より一歳上の兄貴で、73歳である。以下に、いくつかの句を挙げておこう。合掌。
姉にあねもね一行二句の毛はなりぬ
千年やそよぐ美貌の夏帽子
南浦和のダリヤを仮りのあはれとす
幾千代も散るは美し明日は三越
南国に死して御恩のみなみかぜ
物干しに美しき知事垂れてをり
淋しさを許せばからだに当る鯛
階段を濡らして昼が来てゐたり
日輪のわけても行進曲淋しけれ
野を帰る父のひとりは化粧して
路地裏を金魚と思ふ夜汽車かな
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