2020年10月6日火曜日

藤原暢子「とんぼうの翅あをぞらになりにけり」(『からだから』)・・・


  藤原暢子第一句集『からだから』(文學の森)、第10回北斗賞受賞とある。序は飯田晴。跋は大塚太夫「アンリ・カルティエ=ブレッソンの言葉」。序の結び近くに飯田晴は、


  今井杏太郎が亡くなって八年。

  鳥居三朗の急逝から五年。

  今井杏太郎、鳥居三朗を見送った私は、藤原暢子旅立ちの第一句集を「魚座」から「雲」につながるひとすじの光として受け取った。


と記している。そして大塚太夫は、写真家でもあるという藤原暢子に、


  (前略)そういえば、暢子さんに好きな写真家は誰かと訊いたことはない。しかし、アンリ・カルティエ=ブレッソンのこのエスプリ、精神はわかってもらえるだろう。

「瞬間は永遠につながる」

これもブレッソンの言葉だ。藤原暢子はそこを歩いている。 


 という。集名にちなむ「からだから」を含む句はいくつかあるが、それに関わる句を挙げていくと、


   若竹の揺れ体から音のする        暢子

   夏至歩きたがる体をつれてゆく

   かさかさと体はなるる夏蒲団

   とうすみのつるむ体の数字めく

   からだから海あふれだす夏休み

   からだから音湧いてくるをどりかな

   古巣見る目は体から離れゆく

   

などである。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。


   声あげて神輿は熱になりにけり

   新米をおかはりする日三朗忌

   火の神のゐない厨を鉦叩

   白菊のしづかに音を吸ひとりぬ

   神様の息のかかりて初紅葉

   秋の日のしみこむ色のつむがるる

   木の芽和喰ふ口が言ふ山のこと

   ものの芽や山はくすぐつたからうに

   春愁の列車は山に来てしまふ


  藤原暢子(ふじわら・ようこ) 1978年、鳥取生まれ、岡山育ち。




      撮影・鈴木純一「ひとつですが山女の色をおすそわけ」↑

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