2020年10月7日水曜日

折笠美秋「雨だれは/目をみひらいて/落ちるなり」(『火傳書』)・・・



  折笠美秋『火傳書』(騎の会・限定108部・平成元年春分刊)、奥付華印ー折笠冬航、装丁・制作ー舟蕃舎。舟蕃舎こと寺田澄史の「入舞の記」によると、


 『君なら蝶に』(昭和六十一年、立風書房刊)は折笠美秋兄の第二句集であるが、その企画が出た際、勝手ながら私は、〈火傳書〉だけはその集の埒外として欲しい旨、作者に申し出た。〈火傳書〉は、私たちの同人誌「騎」に進行中であったし、どうせなら、騎の会が存続しているうちに、是非に単行冊作品集として、共に、¨騎の會版¨としたかったからである。(中略)

「騎」の誌上に限って、なぜ折笠美秋は多行作品を書き続けるのか。本集各章の前説や後記にも、著者自身、必ずしも真意に触れているとは言えないが、いつも名伏しがたく、熱い思いに駆られるのは、つまり此の多行の句句に、先師高柳重信との、こんにち既に六年に及ぶ、いわば魂魄同行旅の仮託を垣間見するにほかならない。

 句集『火傳書』は、只一冊と言えど献本は無い。著者の意向には反するだろうが、、企画、発行人の思念において、敢えてそうさせていただくのであって、先に¨異風¨と書いたのはそのことである。


と記されている。また、折笠美秋「火傳ノ事」の中には、


 確かに高柳重信作品は類を絶し、その外見は十七文字一行書きの俳句慣習に全く反している。だが、それは、十七文字一行書きの俳句慣習を破壊してみようとする単純な試行ではなく、逆に伝統の奥処、形式の淵源に遡ってみた結果に他ならない。


 と記す。といっても、全身不随、自発呼吸ゼロ、発声不能のなかで、妻の智津子が、瞼や唇のうごきなどから、解読し、作品として録された句である。「微笑(ほほえみ)が妻の慟哭 雪しんしん」「俳句おもう以外は死者か われすでに」「ととのえよ死出の衣は雪紡(つむ)ぎたる」とも詠まれている。ともあれ、折笠美秋の唯一の多行作品60句は、高柳重信の享年と同数である。以下に幾つかを挙げておきたい。


     多行俳句は高柳重信氏一代でこそと固く思いおり候 されどされど 

     多行形式の火消し置くは返す返すもくちおしく候て

   鬼  およそ

   その背姿 は

   桔梗  なり             美秋 


   一人は火

   二人は炎

   その余は

      淡し 


   高山

   柳川

   重き蟬啼

   信は夫(ソ)レ言に


   織笠(おりかさ)と

   記せる書あり

   雪深く

   祈り鎮むと


   生き替わり

   咲き替わり

   征く

   騎影なお


   わが死後も

   夜来の雨を

   人の聞く


折笠美秋(おりがさ・びしゅう) 1934~1990年、神奈川県生まれ。



            芽夢野うのき「足音もなき家中を金木犀」↑

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