2020年10月25日日曜日

森瑞穂「道化師の素顔は知らず鳥渡る」(『最終便』)・・・


 森瑞穂第一句集『最終便』(ふらんす堂)、序は片山由美子「きらりと輝く」、その終わり近くに、

  

    波音の夜をつらぬく寒さかな

     海へ来てつひに水着になれずゐる

 瑞穂さんが生まれ育ち、今も住んでいる岐阜県には、言うまでもなく海がない。海は瑞穂さんにとって憧れの場所か、詩情をかきたてる素材のようだ。(中略)

 時々登場する東京も、瑞穂さんにとっては俳句の女神が住んでいるところなのだろう。これからも想像力豊かに、そして自身の感覚を信じて、個性的な俳句を作ってほしい。

 もっと広い世界がきっと待っているはすである。


 と記されている。また、集名に因む句は、


    星涼し最終便に灯のともり       瑞穂


 であろう。そして、著者「あとがき」には、


  二十代のはじめに俳句をはじめて、気が付けば、私は人生の半分を俳句とともに過ごしてきたことになります。楽しく俳句を詠んでいた二十代。子育ての一番忙しい時期だった三十代は、迷いの時期でもありました。それは俳句を詠むことに対する迷いではなく、私自身の俳句作品に対する迷いでした。四十代目前にして「狩」に入会。「狩」から「香雨」へと変わりましたが、結社の学びのなかで、その迷いはなくなり、ただひたむきに、俳句を詠んできました。(中略)

 俳句は、いつも私に寄り添い、どんなときも救ってくれます。

 これからも、俳句を詠んでいけたら、私はきっとしあわせだと思います。


 とあった。ともあれ、集中よりいくつかの句を挙げておこう。


   暑き夜の積み木の崩れ易きかな

   求人誌のこる暑さのなかにひらく

   産み終へしあとの微熱や夏の雨

   あぢさゐや昼間は誰もをらぬ家

   つけなおす釦八月十五日

   看板は端から錆びて秋の雨

   消しゴムで消せぬ言葉や冬灯

   東京の空の明るき星祭

   ポケットの何にふくらむ春の風

   泣きやまぬ子にしやぼん玉吹いてやり

   サングラスはづせば眼濡れてをり


 森瑞穂(もり・みずほ) 1972年、岐阜県生まれ。


       芽夢野うのき「ベートーベン流るる岸辺鶏頭花」↑

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