森瑞穂第一句集『最終便』(ふらんす堂)、序は片山由美子「きらりと輝く」、その終わり近くに、
波音の夜をつらぬく寒さかな
海へ来てつひに水着になれずゐる
瑞穂さんが生まれ育ち、今も住んでいる岐阜県には、言うまでもなく海がない。海は瑞穂さんにとって憧れの場所か、詩情をかきたてる素材のようだ。(中略)
時々登場する東京も、瑞穂さんにとっては俳句の女神が住んでいるところなのだろう。これからも想像力豊かに、そして自身の感覚を信じて、個性的な俳句を作ってほしい。
もっと広い世界がきっと待っているはすである。
と記されている。また、集名に因む句は、
星涼し最終便に灯のともり 瑞穂
であろう。そして、著者「あとがき」には、
二十代のはじめに俳句をはじめて、気が付けば、私は人生の半分を俳句とともに過ごしてきたことになります。楽しく俳句を詠んでいた二十代。子育ての一番忙しい時期だった三十代は、迷いの時期でもありました。それは俳句を詠むことに対する迷いではなく、私自身の俳句作品に対する迷いでした。四十代目前にして「狩」に入会。「狩」から「香雨」へと変わりましたが、結社の学びのなかで、その迷いはなくなり、ただひたむきに、俳句を詠んできました。(中略)
俳句は、いつも私に寄り添い、どんなときも救ってくれます。
これからも、俳句を詠んでいけたら、私はきっとしあわせだと思います。
とあった。ともあれ、集中よりいくつかの句を挙げておこう。
暑き夜の積み木の崩れ易きかな
求人誌のこる暑さのなかにひらく
産み終へしあとの微熱や夏の雨
あぢさゐや昼間は誰もをらぬ家
つけなおす釦八月十五日
看板は端から錆びて秋の雨
消しゴムで消せぬ言葉や冬灯
東京の空の明るき星祭
ポケットの何にふくらむ春の風
泣きやまぬ子にしやぼん玉吹いてやり
サングラスはづせば眼濡れてをり
森瑞穂(もり・みずほ) 1972年、岐阜県生まれ。
芽夢野うのき「ベートーベン流るる岸辺鶏頭花」↑
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