「現代俳句」10月号(現代俳句協会)は、第40回現代俳句評論賞と第21回現代俳句協会年度作品賞の発表号である。愚生は年度作品賞の選考委員の一人でもあるので、少しばかり触れておきたい。選考委員は浦川聡子・こしのゆみこ・原雅子・佐藤映二・大井恒行。選考評を読むと、直接参加された選考委員は女性軍のみで、愚生と佐藤英二は、自宅からのFAXと事前の簡単な評と電話での参加であったことがわかる。選考委員長は浦川聡子が務めていた。コロナ禍もあり、直接の論議に参加できなかったことは、残念で、申し訳ないことであったが、愚生の選考評の末尾を以下に挙げて、お詫びに替えたい。ともあれ、北村美都子「雪の賦」を最初から意中の一位に置いていたのだが、
(前略)ぼくが最終選考段階で推したのは、「雪の賦」を一位に、二位に山本掌「あるがまま」、第三位に黒沢孝子「夜桜」であった。結果は黒沢孝子「夜桜」の受賞、北村美都子「雪の賦」は佳作になった。いずれもぼくの選んだ作品に含まれており、どれが受賞であってもおかしくなかったので、もとより異存はない。いずれの作者も身の内深く覚える詩心を受け取らせていただいた。
夜桜の先へ先へと白狐かな 黒沢孝子
しやぼん玉吹けば抜け行くさみしさよ
ひと日死をひと日桔梗を思ひたる
病み抜きし頬剃られおり牡丹雪 北村美津子
春雪や諸手を合わせ洗う箸
ゆきやまに稜線われに心電図
ぼうたんやにわかに夜はこぼれだし 山本 掌
濃紫陽花影蹌踉(たずたず)とみちてくる
おんきりきり五臓六腑に火蛇走り
もう一つの記事は、第40回現代俳句評論賞で、外山一機「星空と夕かげ―頴原退蔵、その晩年のまなざしについて」が受賞。こちらの選考委員は髙野公一、久保純夫、高橋修宏、林桂、五十嵐秀彦、橋本直。満場一致だっったという。ここでは高橋修宏評の冒頭を紹介しておこう。
応募作では、「星空と夕かげー頴原退蔵、その晩年のまなざしについてー」(外山一機)が群を抜いていた。戦後、俳句の本質を〈象徴詩〉と定位してみせた頴原退蔵。彼の戦前における日本浪漫派との共振という危うささえ孕む評伝的事実を跡づけながら、晩年にかけての詩的なるものへの傾斜、また彼の生涯を貫いた原風景と呼びうるものを見事に浮彫りにして出色である。
因みに、外山一機の論は、以下のように結ばれている。
(前略)その蕪村について頴原はこうも述べている。
だから蕪村の句にはその背後に彼自身の生活よりは、彼の美しい詩の夢がいつも見ら
れるのであります。
そういえば「西鶴の日記よりも、夢で見た西鶴の方が本当の事を語って居るのかもしれない」とも言っていた頴原である。頴原は、いわば詩のもたらす夢をいつも追いかけていたのであった。
外山一機(とやま・かずき)1983年、群馬県生まれ。
芽夢野うのき「秋深し都こんぶを手にすれば」↑
0 件のコメント:
コメントを投稿