高岡修詩集『蟻』(ジャプラン)、趣向のこった詩集である。まずは装丁だが、カバーは、銀の小斑点をちりばめた(それは蟻かも知れない)黒色の幅の広い帯、わずかに半身の蟻が覗いているが、カバーが少しでもずれると隠れるか、ずれなくても容易に見逃しそうである。ただそのカバーをとると大きく印刷された蟻の文字に蟻が這っている。
内容は、冒頭の詩が、ブログタイトルにした「夜明け」で、一行の「茜色に一匹の蟻が噛みついている」である。次の二編目は、二行の詩、
靴底
蟻にとっては
靴底さえもが殺意の様相を帯びる
そして、次の詩は三行、
夢
蟻たちの多くは夢をみない
光る世界を知らないから
見るべき光景が存在しないのだ
と、7詩篇までは一行づつ増え続け7行の詩になる。その後はその法則は破られる。しかし、かならず蟻はどの詩篇にも登場するのだ。ただ、最後の詩篇は、「、」読点で、詩行の頭はすべて「、」で始まる。それは、こうである。
、
、しかるに
、悲劇的なるものへと近接するばかりか
、あらゆる亀裂から這い出し
、恐怖さえ享楽しつつ
、自分をさえ誇らしげに嘆きながら
、地上世界の真昼を殺ぎ
、殺戮もまた美徳のひとつだとして
、叫び
、光る世界に横たわる愛撫のようなものを憎悪しては
、走り
、絶望へ
、眩しいばかりの錯乱の季節へ
、無償性を捧げ
、苦々しく
、匂い高く
、誕生と同時に激しく老いさらばえながら
、君は
、
ついに、詩行から、「蟻」は消えて、ただの「、」になってしまうのだった。
高岡修(たかおか・おさむ) 1948年、愛媛県宇和島市生まれ。
撮影・芽夢野うのき「桜紅葉うらがわ見せて戻りけり」↑
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