2020年10月17日土曜日

高岡修「夜明け/茜色に一匹の蟻が噛みついている夜明け」(高岡修詩集『蟻』)・・・ 


 高岡修詩集『蟻』(ジャプラン)、趣向のこった詩集である。まずは装丁だが、カバーは、銀の小斑点をちりばめた(それは蟻かも知れない)黒色の幅の広い帯、わずかに半身の蟻が覗いているが、カバーが少しでもずれると隠れるか、ずれなくても容易に見逃しそうである。ただそのカバーをとると大きく印刷された蟻の文字に蟻が這っている。

 内容は、冒頭の詩が、ブログタイトルにした「夜明け」で、一行の「茜色に一匹の蟻が噛みついている」である。次の二編目は、二行の詩、


     靴底


  蟻にとっては

  靴底さえもが殺意の様相を帯びる


そして、次の詩は三行、


    夢


蟻たちの多くは夢をみない

光る世界を知らないから

見るべき光景が存在しないのだ


 と、7詩篇までは一行づつ増え続け7行の詩になる。その後はその法則は破られる。しかし、かならず蟻はどの詩篇にも登場するのだ。ただ、最後の詩篇は、「、」読点で、詩行の頭はすべて「、」で始まる。それは、こうである。


      、

、しかるに

、悲劇的なるものへと近接するばかりか

、あらゆる亀裂から這い出し

、恐怖さえ享楽しつつ

、自分をさえ誇らしげに嘆きながら

、地上世界の真昼を殺ぎ

、殺戮もまた美徳のひとつだとして

、叫び

、光る世界に横たわる愛撫のようなものを憎悪しては

、走り

、絶望へ

、眩しいばかりの錯乱の季節へ

、無償性を捧げ

、苦々しく

、匂い高く

、誕生と同時に激しく老いさらばえながら

、君は


 ついに、詩行から、「蟻」は消えて、ただの「、」になってしまうのだった。


高岡修(たかおか・おさむ) 1948年、愛媛県宇和島市生まれ。



       撮影・芽夢野うのき「桜紅葉うらがわ見せて戻りけり」↑

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