「句抄覚え書き」第38号(周防一夜会)、自由律俳誌らしく、巻頭に荻原井泉水「『層雲の道』よりの抜粋」がある。その一部に、
(前略)一茶の俳句というものは作品としては、ずいぶん駄作が多い。然し一茶は句を作るということを以て、そこに一つの自由の世界を見出しその世界に住んで、人間的の安心を得ていたということは、そこに「俳句の道」というものがあったからである。俳句の道にあっては「作品」と「人間」ということは離して考えられない。そこに「一行詩」とはおのずから違うところの「俳句」というものがある。今日から大正昭和(初期)のことを回顧してみても、その長い年代の間に深く記憶されていて、印象的に浮かびあがってくるものは、優れた俳句作品というものよりも、それを作ったもの、即ち人間としての作者というものである。
と、記されている。ともあれ、一人一句を挙げておこう。
宿題のない余生で今日も自習です 久光良一
人づてに褒められ 笑顔になれた日の幸せ 村田ミチヱ
海ほおずきかんだ音の記憶 山口綾子
目覚めてもう眠れぬ老いの午前四時 小藤淳子
「恋」いい響きだ忘れた声見付けた 吉川 聡
猶予(いざよ)う先の赤ちょうちん点いては消える 吉村勝義
洗濯物たたむ手が生きています 甲斐信子
波間によい色みえていちにちのはじまり 加治紀子
妻がマスクしてちょっぴり若く見えた 石田帝児
こんな月夜に眠ってなくてよかった 部屋慈音
忘れたい言葉ふと月の澄む夜 藤井千恵子
見送る後ろ姿 約束出来ない寂しさ 小村みつ枝
服で隠してるだけ 皆傷だらけなんだ 松根静枝
雑草の葉に残る露に明日の自分を探し見る 山本哲正
ビワがもぶれ付いている 好きに採ってよ 國本英智郎
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