2014年10月30日木曜日

遠山陽子「かき抱く一本杉の中は秋」・・・

掲句は、先般、上梓された遠山陽子第5句集『弦響』(角川学芸出版)からのもの。帯には高橋睦郎が「陽子さんの近作に敏雄蘇生しての新作かと驚くこと屢々だ」と賞揚。集中、『弦響』の巻尾に「敏雄に和す」と章立てして、陽子句が置かれ、三橋敏雄の原句と併記されいる。因みに掲句は以下のように和している。




    世界中一本杉の中は夜       敏雄
    かき抱く一本杉の中は秋      陽子 

以下、いくつかを挙げておこう。

   人は燈をふやす夕べぞ秋のかぜ   敏雄
   人は火を作る夕ぞ渡り鳥        陽子

   原爆資料館内剥き脱ぐ皮手套    敏雄
   革手袋落してきたる爆心地      陽子
  
   労働際赤旗巻かれ棒赤し       敏雄
   国民学校荒梅雨の万国旗       陽子
   
   鬼赤く戦争はまだつづくなり      敏雄
   鬼も見よ氷河はすでに溶けはじむ  陽子


   はつなつひとさしゆびをもちゐんか 敏雄
   くすりゆびつかはず桃を交配す   陽子

   太陽は目にいつぱいの暗い事態(チェルノブイリ)   敏雄
   収束不能(フクシマ)を敏雄は知らず敏雄の忌     陽子

遠山陽子(本名・飯名陽子)昭和7年東京市生まれ。本句集は平成17年から26年までの作品376句所収。この期間は個人誌[玄」に『評伝 三橋敏雄―したたかなダンディズム』を執筆連載した期間に重なる。


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