2017年5月15日月曜日

金子敦「月の舟より降りて来る銀の猫」(『音符』)・・



 金子敦第5句集『音符』(ふらんす堂)、栞文は杉山久子、金子敦とは四半世紀にわたり俳句文通を続けてきたという。それがいまだに続いているのはもちろんだが、金子敦の句稿には通し番号が振ってあって、現時点で五百八十になっているのだとか(「あとがき」によると)。どうやら金子敦という人は実に義理堅い人らしい。猫好きだというから猫の句はあるのは当然としても、杉山久子によると自称「スイーツ王子」、音楽好きでもあって、義理堅くそれらの句を多く収載している。
集名となった「音符」や音符を想像させる句だけでもけっこうある(いくつか挙げる)。

  封緘は音符のシール春隣          敦
  音符揺れ音符と触るる聖樹かな
  つくしんぼスタッカートで歌ひ出す
  三拍子で弾んで来たる雀の子
  白南風や楽譜に大きフォルティシモ
  春きざすメトロノームのアンダンテ
  まんさくやト音記号に渦いくつ
  巴里祭や楽譜の柄の包装紙
  丸刈りのボーイソプラノ星祭
  カスタネットまでたんぽぽの穂絮飛ぶ

  
 ブログタイトルに挙げた「銀の猫」は、著者にはめずらしく幻想的な句であろう。愚生は猫好きというわけではないが、かつて二十代の頃に「猫族ノ猫目ノ銀ヲ懐胎ス」(『秋(トキ)ノ詩(ウタ)』所収)と詠んだことがある。つまり猫には銀が良く似合うのだ。
ともあれ、以下には愚生好みの句をいくつか挙げておこう。

  膨らんでより風船の揺れはじむ
  十二月八日やシュレッダーの音
  酢の物に少しむせたる朧かな
  定員は妖精ふたり花筏
  湯豆腐に湯加減をちらと訊いてみる
  独り占めか一人ぼつちか大花野
  鉄条網ひとつひとつの棘に雪  

金子敦(かねこ・あつし)1959年、横浜市生まれ。



0 件のコメント:

コメントを投稿