2017年5月21日日曜日

高橋龍「作者(つくりて)は読者(よみて)をなげく秋の夜」(「人形舎雜纂」・続)・・



「人形舎雜纂」(高橋人形舎)は高橋龍の個人誌だが、その博覧強記には、いつも驚嘆している。高齢と病体をおしてなお軒昂に限りがない。それぞれの文は彼の来し方をも伺わせている。「あとがき」には、

 「親指聖母」と「対照的あべこべ」は、昨年夏以降に書いた。その後に句控『名都借』を編んだところで十一月の夜半に肺気腫と肺炎の併発で緊急入院。年末近く退院したが、酸素ボンベからチューブで酸素を吸入しての生活になった。しかし、『名都借』上梓して発送。年初からは「道行」始末、と「遠くて近きもの」を書き上げ、併せて句控「番匠免」をまとめた。三ヶ月に満たない日数なので共に不出来である。不出来といえば、むかし髙柳さんが、とにかく書け、結果については、不出来であると言えばよい。と笑って話されたことがある。(中略)
 以前、わたしは「季語」は催事=イベント。「季題」は儀式=セレモニー。とどこかに書いたが、さらにこの、様式化された自然を「季題」につけ加えたい。
 このようなもの、今後もだせるかどうか。それはわからない。
             平成二十九年四月一日

とある。記した日が万愚節、これも高橋龍の流儀だ。ともあれ、綿密に調査された長文ばかりなので、あとは直接に本文にあたっていただき、ここでは「句控・番匠免」からいくつかの句を以下に挙げておきたい。

  初御空落日はやもはじまりぬ      龍
  春立つや願ひましては五円也
  蚊帳を出て袖を通すはよろけ縞
  初あらし場の闇時の闇かさね
  土下座して拝(おろが)む蛇の入る穴
  三橋忌松山心中(まつやましんじゅ)頬冠(ほつかむり)
    注:「松山心中」は松山在住の谷野予志から三鬼へ、
    三鬼から敏雄へ。部屋の明かりを消してろうそくの灯で歌う。
  二・二六東京マラソン雪降らず
  下腹部のYの字ゆるめ失禁(おもらし)
  お互いに見せあふ奥処ももすもも




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