2019年7月22日月曜日

日下野仁美「吊るされて海の色恋ふ貝風鈴」(『風の仮面』)・・



 日下野仁美第三句集『風の仮面』(文學の森)、集名に因む句は、

  朴落葉風の仮面を拾ひけり      仁美

 跋は、坂口昌弘「良きことのあるを信じて」、その中に上掲の句について、

 句集名の「風の仮面」という言葉だけからでは意味が明瞭にとれなくて風そのものが仮面になったイメージがあるが、仮面とは朴落葉の比喩であり、風が朴落葉を落としたか、あるいは風という冬の気が朴落葉を作る契機となったということが分かる。風と仮面の間には詩的飛躍がある。朴落葉を仮面と思うのは作者のユニークな詩的発想である。

 と記されている。著者は結社「海」の副主宰だということもあるかも知れないが、海を詠んだ句が多くある。先ずは巻頭句からして、「初富士の翼大きく海に立つ」であり、最後の章「男富士」には、「海へ出てよりは迷わず秋燕」がある。その間の各章で海を詠んだ句を挙げれば切りがないほどである。例えば、数例を挙げるが、

  刻々と明けゆく海や初日の出
  コスモスに来て波となる海の風
  水仙の香り鎮めて海暮るる
  夫に買ふ朝顔市の海の色(愚生注:夫は「海」主宰の髙橋悦男である)
  ふる里の海より上がる今日の月
  海の風葉牡丹に来て渦となる
  朝顔や海より深き海の色
  探梅や手の平ほどの海見えて
  朝顔の終の一花の海の色

 ことほどさように日下野仁美は「海」の作家である。ともあれ、以下は、愚生好みに偏するが、他の句をいくつか挙げておきたい。

  風生の木の実時雨となりにけり
  風船売り一つを空へ放ちけり
  降りみ降らずみ名残りの雪となりにけり
  花の種母の遺愛の鉢に蒔く
  叶はざることは余白に日記果つ
  とどまればそこが終の地蜷の道
  初蝶の飛ぶといふより漂へり
  盆祀る父母の知らざる世を生きて
  不老不死の水と札立て水澄めり 
    
 日下野仁美(ひがの・ひとみ) 昭和22年、茨城県生まれ。

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