2019年7月9日火曜日

ふけとしこ「蛭蓆ろろんろろんと水へ水」(『眠たい羊』)・・・



 ふけとしこ第5句集『眠たい羊』(ふらんす堂)、集名に因む句は、

    雪の日を眠たい羊眠い羊     としこ

 集中に、

   春昼のひんやりとある眼の模型

 の句があり、愚生の年代では、句の趣が違うとはいえ、すぐさま、

   犬交る街へ向けたり眼の模型   田川飛旅子

 の句を思い起こす。これも時代の受け持った感性、感受のなせるワザなのかもしれない。あるいは、

   六月を風のきれいな須磨にゐる
   青饅や須磨に眼張を上げて来て

の句には、

  〈あはれにすごげ〉須磨のガストといふ処   高山れおな

の句をつい、思い浮かべてみたりした。ただ「カリヨン」の市村究一郎師を詠んだ句、

       十一月は師の生れ月逝きし月

 にはホロリとさせられた。市村究一郎は、1927年11月23日、東京府府中町に生まれ、2011年11月26日に没している。愚生の住む府中市には、「○○カリヨン」とか「カリヨン会○○」とか、雑誌は出ていないらしいが、句会はいくつかに分かれながらも継続されていて、一年に一度は、かつての「カリヨン」の仲間の皆さんが集まられるという(一年半前までは愚生の働いていた会議室をよく使われていた)。
 また、ふけとしこは「ほたる通信」という葉書通信を毎月?発行していて、それには、数句と短いエッセイが書かれていて、楽しませてくれる。
 ともあれ、集中より愚生好みになるが、いくつかの句を挙げておこう。

   早春を雲もタオルも飛びたがる
   宿り木も宿木も芽を立てて
   走り根を枕に行基風光る
   スズメノチャヒキウシノシッペイ芒種なる
        註・雀の茶挽 牛の竹箆 共にイネ科
   水光る腹を細めてくる蛭に
   箱庭の二人心中でもしさう
   足浸すかなかなまたかなかな
   むささびの穴とや木の葉かかりゐて
   冷たしよ草の青さもその丈も
   冬の日や鞍置場E開かれて
   悪相といふべき榾のよく燃ゆる
    

ふけとしこ(本名・福家登志子) 1946年 岡山県生まれ。

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