2019年12月11日水曜日

諏訪洋子「断層に凍蝶あまた抑留史」(「サンチャゴに雨が降る」創刊号より)・・



 「サンチャゴに雨が降る」創刊号(編集・発行 江里昭彦)、江里昭彦の個人誌で年一回刊、サブタイトルに「俳句+評論+資料」とある。誌名は同名の映画に由来する思われるが、愚生は映画に詳しくないので、想像でいうのだが、誌名にしたくらいだから、映画の内容とリンクする、江里昭彦流の比喩が込められているにちがいない。
 本号に江里昭彦の句作品はなく、彼のエッセイ、評論、書評など、内容は盛りだくさんで、さしずめ、江里の一冊の書物を読むような感じである。ちなみに、収められた散文の題をあげると「笑いながら塚本邦雄からたち去る」「非武装地帯へ行ってきた」「靴、履物、そして裸足ー映画『1987』について」「散文の時間『同時代人の肖像』フランツ・ブライ」「散文の時間『カタツムリ』辻井喬」「めでたさもちう位なりおらが春ー二〇一九年参院選について」「詩歌の時間『月下の一群』堀口大学/石垣りんの詩」「光州事件を記憶する」「辺野古新基地は難破船と同じ きっと海に沈んでゆく」など、j時事的、政治的発言を多く記している。
 なかでも印象に残ったのは「めでたさもちう位なりおらが春―二〇一九年参院選」を分析し、今後の展望について、23ページに渡って書かれた論には訴求力がある。江里昭彦は、愚生と同じ山口県生まれであるが、彼は今、故郷の宇部で発信を続けている。山口県は言わずと知れた保守王国。安倍晋三は衆院山口4区であり、すでに、次の選挙では、れいわ新選組が、野党共闘が実現するのであれば、安倍に対抗する候補者を擁立するとるとまで、噂ながら伝え聞いている。その「れいわ新選組」については、

  (前略)山本太郎は「敗者、弱者こそここに集まれ」と呼びかける。株価上昇で羽振りのいい連中、華美な消費で人生を楽しんでいる輩は来なくていい!困っている者、人生がゆき詰っている者、不安に押し潰されそうな者よ、ここが君たちが自信を取り戻す場所だ、と。こういう語り口、こういう誠実さで話かける政治家は、いままでいなかった。政治演説の基調は、どの政党も「私たちは解決策を知っています。だから私たちを応援して下さい」である。無意識のうちに上下関係が設定されている。れいわ新選組は違う。「立ち上がるのは君だ。実行するのは君だ。そのために自己肯定感と自信を保ってほしい」と、呼びかける。このように、れいわ新選組の展開する選挙活動は、一種の「精神の立て直し」運動の側面を有していることにも注目しておこう。

 と述べる。そして、結論は「五〇〇〇万の棄権層に地殻変動を」で、


(前略)政治視界がすっきりし、構図が定まった。つまり、どの方向へ進んだらよいか、何をなすべきか、誰が援軍としてあてにできるのか、についてもうこれまでのように悩まなくてすむだろう。
 その一方で、五〇〇〇万もの膨大な棄権層に働きかける労苦を思うと、そのめでたさは「ちう位」にまで減じるのだ。でも展望と可能性はある。(中略)

 といい、内田樹の新自由主義グローバリズムの本質「私たちの国で今行われていることは、つづめて言えば『日本の国富を、各国(特に米国)の超富裕層の個人資産へ、移し替えるプロセス』なのである」の言を引用し、

 そっぽを向いている五〇〇〇万棄権層にむけて、「あなたたちの富についてもそうなのですよ」と訴えることができる。これ以上貧しくなりたくないなら、これ以上将来の不安で心を苛まれたくないなら、ともに行動しましょうと、呼びかけることができる。
 五〇〇〇万棄権層のなかに地殻変動を起こすことができるか否か、取り組みは始まったばかりである。

 と結んでいる。詳細は、是非、本誌を手にとられたい。同封のコピーのメセージには、

 世界の良心が香港を注視している/香港を見殺しにしてはならない/中国の覇権と暴力に抗する/アクションを起こそう/習近平が、催涙弾の臭いをぷんぷんさせて、日本に来ようとしている

 とあった。ともあれ、ゲスト作品の俳句のなかから、一人一句を挙げておこう。

   つぎつぎと押されてゐたるきのこかな    金山桜子
   日月の齟齬や鬼やんまのあぎと       諏訪洋子
   一日が一日のまま過ぎる        西躰かずよし



撮影・染々亭呆人 落柿舎↑

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