2021年2月8日月曜日

伊藤眠「もう背伸びせぬてふ小声いわし雲」(「雲」第76巻)・・・



 「雲」第76巻(編集・発行人 伊藤眠)、作品中心の俳誌であるが、今号のエッセイには、中岡昌太「風天の寅さんこと/渥美清は俳人だった」。中に、

 

    乱歩読む窓のガラスに蝸牛          風天

    赤とんぼじっとしたまま明日はどうする


 の句がある。先般の「俳句界」(文學の森)一月号では、特集「渥美清の俳句」(俳号・風天)があった。そこでは、かつて俳句仲間だった浅井慎平「旅鞄重きは春の深さかな」、矢崎泰久「風と共に去りぬ」などが想い出を語っている。

 ところで「雲」は順調に号を重ねている。愚生は、一昨年の、現代俳句通信講座では、一緒に講師を務めさせてもらった。年一回行われる吟行会は中止だったが、久しぶりに彼女にお会いした。「雲」の作品欄には、愚生が何十年もお会いしていないが、当時から注目していた作家の作品も読める。懐かしいし、その健在ぶりを遠望している。ともあれ、以下に同誌本号より一人一句を挙げておきたい。


  帰心ふと水辺を歩く冬の鷺       大木あまり

  鯨骨のしらじら熊野冬はじめ       大西健司

  人の世の病はるけし冬銀河        脇本公子

  去年今年生涯飲まぬ般若湯       加賀谷三棹

  朗人逝き秞子も去りて年惜しむ      劒物劒二

  青梅にはへそ饅頭屋冬ともし       柳堀悦子

  総持寺の屋根の力みも冬構へ       織本瑞子

  「一人で来たの」と医師の問ふ小六月  和気千穂子  

  白露を作りて遊ぶ風の船         小林深春

  焼鳥の串で時局を解説し         齊藤至旦

  追憶の唐傘通学初時雨          高堰明光

  鳳仙花杖無き日々の卒寿なり      高堰レイ子

  うなづきて湯豆腐となる夕餉かな    堀江いさを

  干支頭未知の八起は初明かり       宮﨑空拳

  藤十郎逝き顔見世の遠かりき       石田 眞

  寒晴れやフジコへミングカンパネラ   川嶌ますみ

  祖父ありし日の外套の重さかな      伊藤 眠

  


        芽夢野うのき「冬枯れの髭にひっつき枯れすすむ」

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