2021年2月27日土曜日

小川蝸歩「午後の柩かげろうのバスが出るぞ」(『さわがしい楽園』)・・・

 


 小川蝸歩第一句集『さわがしい楽園』(私家版)、各章の扉の挿絵は娘の知可とあり、序は妹尾健太郎、それには、


 かたつむりより遠きものあるべからず  阿部青鞋(『続・火門集』所収)

小川義人さんその人は『青鞋』を阿部青鞋没後三十年顕彰「綱」誌特別号として世に問うた迅速なる推進力である。号する〈蝸歩〉は謙譲の美徳のみに非ず、地に胴のついた歩みは着実でありながら滑らかに速い。(中略)

 梟の止まりし椋と知らざりき      (平成29年/鵙日和より)

かつて美作海田にあった青鞋居所・羽庵の跡を蝸歩さんにご案内いただいた。そこにはじつに印象的な枝ぶりの椋の大樹が現存しており、この句を前にして詠まれたもの。青鞋第一家集『火門集』の冒頭句〈梟の目にいっぱいの月夜かな〉を踏まえている。他にも阿部青鞋を念頭に詠まれた作品として〈方舟の虹の意味知る青鞋忌〉〈両端に天と地をおく冬の虹〉等が本句集には収められている。

 しんがりはいつもわたしとかたつむり  (平成27年/愚兄より)


とあった。また、著者「あとがき」には、


 私の俳句は今は限りなく亜流かもしれない。一流という大河には、なれそうも無いが大河に注ぐ小さな川ぐらいなら、なれるかも知れない。それを私の本流としよう。

 本句集『さわがしい楽園』は句会を中心にあとは、西東三鬼賞、各種大会に投句した句を年度別に集めた小句集である。


とある。そして、集名に因む句は、


   小鳥来るこのさわがしい楽園に     蝸歩


であろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


   ひとつ来てふたつと来ない冬の蝶

   妻一番仕事遅番春二番

   新住所枯野経由で徒歩五分

   本籍地列車と書いて修司の忌

   病歴に一人静と書いてみる

   空の青消されて十二月八日

      曲水の宴寺井谷子先生特選

   人恋えば花にならんか三鬼の忌

   閃光の先八月という柩

   平成や畳の上のしだらでん

   師を持たず三鬼の師系花の時

   天皇の国に生まれて桜守

   春愁や三面鏡に過去未来


 小川蝸歩(おがわ・かほ) 1963年、岡山県生まれ。



    撮影・鈴木純一「うさちゃんのクツシタぬげた梅咲いた」↑

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