2022年5月4日水曜日

森賀まり「好きな人なれば声浮く五月かな」(『しみづあたたかをふくむ』)・・

  


 森賀まり第3句集『しみづあたたかをふくむ』(ふらんす堂)、集名について、その「あとがき」に、


 水泉動(しみずあたたかをふくむ)。新年が明けて大寒の少し前の時候である。

 暦の中にこのことばを見付けたときなつかしくなった。

 私の生家は四国石鎚山の登り口に近く、湧き水を水源とする地にある。凍るような朝は蛇口を開け放ち、水が温んでくるのを待ってから顔を洗った。

 七十二候を眺めるに、その多くがふとした気づきを誰かがつぶやくようだ。なかでも玄冬の底に置かれたこの語にひかれる。水の温度はほとんど変わらないのに、いっそうの寒さがはじめてその温みを気づかせる。ひらがなに開いてみると、その先の春を待つ心がより感じられるように思った。

とある。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。


   綿虫や豆腐は水を見つつ購ふ        まり

   春風に背中ふくらみつつ行けり

   烏瓜の花が黙つてついてくる

   こほろぎの滴のごときかうべかな

   札納人の中より手をだしぬ

   帷子の何も握らぬこぶしかな

   生身魂返杯眉にかかげたる

   大年のその日へ花の届きけり

   押すとなくころがすとなく恋の猫

   夏蓬真白でもなき白を着る

   鬼灯をあげようと言ひくれざりき

      母は

   灸花聞こえざるときわれを見る

   白桃や過去のよき日のみな晴れて

   梅真白その奥に泥舟がある

   シクラメン灯りつけても暗かりき

   橋よりも低く花火の上がりけり


 森賀まり(もりが・まり) 1960年、愛媛県生まれ。



     撮影・鈴木純一「さあ入れ大きな蕪を抜いたなら」↑

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