小川軽舟第6句集『無辺』(ふらんす堂)、その「あとがき」に、
この句集に収めた三五七句は、この世でひととき私の前に現れ、それを書き留めておきたいと思った事どものの蒐集である。私たちは果てを知らない無辺の世界に危うく浮かぶように日常を営んでいる。無辺より来たって今在るものは、いつか無辺に消え去る。その過程で偶々出会えた物や心の端正な姿を、俳句の形に残しておきたい。そう願って私は俳句を作り続けている。
とあった。ともあれ、愚性好みに偏するがいくつかの句を挙げておきたい。
元日や見渡すかぎりものに位置 軽舟
連翹や降る音なきに軒雫
日の丸の夕日と見ゆる桜かな
水彩に下書の透く五月かな
風鈴や降るぞ降るぞと暗くなる
野に遊び爪なまぐさき夕べかな
駅弁は窓に買ひたし山若葉
作り滝商談済みて縁談に
盛り場は裏を飾らず蚊喰鳥
学歴と官歴に死す赤絨毯
麗かや眠るも死ぬも眼鏡取る
深緑やこどもの頃のひかり号
写真剥ぐやうに八月また終る
大阪にアジアの雨や南瓜煮る
生涯の残光に父冬帽子
累計は減らざる数字年を越す
小川軽舟(おがわ・けいしゅう) 昭和36年、千葉市生まれ。
★閑話休題・・有賀眞澄「ひもろぎやおのが手で喰ふ雪の味」(「迷宮の虚像」展案内より)・・
有賀眞澄他「迷宮の虚像」展(於:ギャラリー・ザロフ、渋谷区初台・03-6322-9032。10月30日〈日〉13時~19時、~11月8日〈火〉)。案内状にあった他の2句は、
人はしらたふれて春の大深度 眞澄
位置の似の差ンのあはひにてふ死せり
である。そのチラシの中に、「有賀眞澄は俳人でもあり、そのオブジェも俳句のごとく、なにか具体的なイメージを投げかけくるものではない。だが、そこからはなにかが響いてくる。ーー 体感したことのない余韻が、その作品は、この世の世界とはかけ離れた次元を垣間見せてくれる異形なのだ」とあった。
撮影・中西ひろ美「冬近しすぐに選べと道二つ」↑
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