2022年11月22日火曜日

藤島咲子「存念のいろか水辺の冬紅葉」(『自註現代俳句シリーズ・藤島咲子集』)・・


  自註現代俳句シリーズ・13期14『藤島咲子集』(俳人協会)、著者「あとがき」によると、「昭和六十一年から令和三年までの作品から三百句を抽出」とある。いくつかの句と自註を以下に挙げるが、原句には、すべて読者用にルビが付してある。


 緋鹿(ひか)の子を空に絞れる桃百花(ももひゃっか)

   小牧市北東部の桃の産地での詠。桃ケ丘小学校へ転勤した友に誘われて桃畑を

   巡った。桃源郷を想像しながら遊んだ日。


 うすらひは魚(うお)の天蓋丈草忌

   犬山で「耕」内藤丈草を偲ぶ俳句会。句会の朝賜るようにできた句。はじめての

   体験であり自分が一番驚く。合評で「天涯」より「天蓋」に。


 寂鮎(さびあゆ)の水底(みなそこ)の岩めぐりくる

  〈水底の岩に落ちつく木の葉かな〉のあれば。内藤丈草は書物の出逢いにより、心を

   豊かにしてくれた人のひとりであった。


 以下は、愚生好みに偏するが、句のみをいくつか挙げておきたい。


  風の蓮日の蓮またも雨の蓮

  山を負ふ川真闇より鵜飼の火

  越(こし)の国水仙の風尖りけり

  俳諧の鬼あらはれよ杜晩夏(もりばんか)

  禅林やいくたび蜻蛉(とんぼ)水たたく

  蛇穴を出て巳年なる草の上

  ひとにぎりの夢もて花野よりもどる

  伊勢湾の波を平らに昭和の日

  シャガールのすみれいろなる春の風

  百歳のふふむ一粒黒ぶだう

  白鳥の翔(た)つとき水のひかりひく

  懐しきひと来し方を爽やかに

  鉄舟の文字濃くふとき寺襖

  春の蕗摘んで煮てみる夕ごころ 

  紫陽花の毬良寛の毬ならむ


 藤島咲子(ふじしま・さきこ) 昭和20年、富山県生まれ。



    撮影・鈴木純一「冬の虹なにもせで去る浮世かな」↑

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