自註現代俳句シリーズ・13期14『藤島咲子集』(俳人協会)、著者「あとがき」によると、「昭和六十一年から令和三年までの作品から三百句を抽出」とある。いくつかの句と自註を以下に挙げるが、原句には、すべて読者用にルビが付してある。
緋鹿(ひか)の子を空に絞れる桃百花(ももひゃっか)
小牧市北東部の桃の産地での詠。桃ケ丘小学校へ転勤した友に誘われて桃畑を
巡った。桃源郷を想像しながら遊んだ日。
うすらひは魚(うお)の天蓋丈草忌
犬山で「耕」内藤丈草を偲ぶ俳句会。句会の朝賜るようにできた句。はじめての
体験であり自分が一番驚く。合評で「天涯」より「天蓋」に。
寂鮎(さびあゆ)の水底(みなそこ)の岩めぐりくる
〈水底の岩に落ちつく木の葉かな〉のあれば。内藤丈草は書物の出逢いにより、心を
豊かにしてくれた人のひとりであった。
以下は、愚生好みに偏するが、句のみをいくつか挙げておきたい。
風の蓮日の蓮またも雨の蓮
山を負ふ川真闇より鵜飼の火
越(こし)の国水仙の風尖りけり
俳諧の鬼あらはれよ杜晩夏(もりばんか)
禅林やいくたび蜻蛉(とんぼ)水たたく
蛇穴を出て巳年なる草の上
ひとにぎりの夢もて花野よりもどる
伊勢湾の波を平らに昭和の日
シャガールのすみれいろなる春の風
百歳のふふむ一粒黒ぶだう
白鳥の翔(た)つとき水のひかりひく
懐しきひと来し方を爽やかに
鉄舟の文字濃くふとき寺襖
春の蕗摘んで煮てみる夕ごころ
紫陽花の毬良寛の毬ならむ
藤島咲子(ふじしま・さきこ) 昭和20年、富山県生まれ。
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