『谷さやん句集』(朔出版)、跋は坪内稔典「谷さやんの俳句を読む」。その中に、
(前略) 棒アイス舐めて鴉を従えて
さやんの俳句は、実は音よりもイメージに傾斜している。音楽的でなく絵画的と言ってよい。音楽家よりも画家に近いのだ、さやんは。その典型とも言うべき作品がこの句だ。少年か少女だろうか(もちろん、私のような老人であってもよい)、棒アイスとカラスの取り合わせがなんとなくおかしい風景になっている。棒アイスという手軽さ(安さ)がなんとなくおかしい感じを漂わせるのだろう。
とある。また、著者「あとがき」に、
『谷さやん句集』は私の第二句集である。二〇一八年に刊行した俳句とエッセー『空にねる』から改めて一九九句を再録し、以降の約四年間の二百句を「夏柑ひとつ」として収録した。
この間、二〇二〇年六月に「船団」(坪内稔典代表)が完結し、散在した。(中略)
作り続けた俳句の新しい発表の場所は、思いも寄らなかったブログ〈坪内稔典の「窓と窓」〉だった。坪内先生に直接俳句を提出すること、翌日には講評とともに五句が公開されることは、経験したとのない緊張感を伴った。ブログの「常連」という言葉との出会いが新鮮で、自分の俳句にも、新しい言葉が兆していればいいのだが。
とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
ボートみな尻にスクリュー雲は秋 さやん
猫じゃらしいつから考え込むように
サキソフォン奏者は遺影缶ビール
泥の手をあければ貝や風光る
桜散る日の考える膝である
団栗と貝殻団栗と拳銃
囲碁の昼冬の波音しめ出して
福引の白が気の毒そうに出る
行く春の鞄に入る鞄かな
菓子箱の中をすべるよ蟬の殻
谷さやん(たに・さやん) 1958年、愛媛県生まれ。
撮影・中西ひろ美「守られて露でいる間の朝(あした)かな」↑
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