2017年12月2日土曜日

西躰かずよし「アト少シ生キタイ雨ヲ受ケル」(『窓の海光』)・・



 西躰かずよし『海の海光』(鬣の会・風の冠文庫22、500部限定、税込1000円)、解説で林桂は、以下のように結んでいる。

  〈西躰かずよし〉は、短律の「境涯性」を擬きながら、その一方で、短律句の内部構造をハイブリッド化しようとしているのだろう。ここには少なくとも、現在に差し出された短律に正対しようとする誠実さがあるだろう。そして、その誠実さに於いて、〈西躰かずよし〉は、短律句の現在を引き寄せている大切な作家である。もちろん、現在の「俳壇」の視線が気づいているふうはないのだが。

 つづめて言えば、『窓の海光』は、現在では、じつに珍しい短律句集である。しかも、林桂の解説以外には、著者による「あとがき」などはない。つまり、この作品集を、言語作品としてのみいかに享受するかということのみが試されているのだが、著者も、たぶん一切の現実的、通俗的な生活を作品の辺々として見せたくはないのだ。それを林桂は「解説」の冒頭近くで、

(前略)短律で書くという行為は、そうした俳壇の外に身を置く覚悟とともに、自ら発表の場を確保する覚悟を持っていなければならない。第一に自己の表現欲求に向かい続ける真摯さと清潔性が必要だ。そして、西躰かずよしは、それを選んで、私たちの前に突如として現れたのだった。

 初出一覧をみると、見事に「鬣」以外には、句が発表されていない。2008年から2016年に至る作品、200句弱だが、珠玉である。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。

  夜、置き去りの月がある
  雨を生れたばかりの色でかく
  死ぬ理由もなく雨にぬれる
  海をきれいな折り紙でつくる
  交叉するひかりをあつめる
  抱いた犬がつめたい
  何時カ空二届ク指
  冬の旅終わり海へ帰る

西躰かずよし(にしたい・かずよし)、1972年京都府福知山市生まれ。
装幀・挿絵、永井貴美子



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