2017年12月3日日曜日

佐々木敏光「冬の沼おぼろなるものたちのぼる」(『富士山麓・晩年』)・・



 続・佐々木敏光句集『不二山麓・晩年』(邑書林)、集名由来の句は、

  晩年や前途洋洋大枯野      敏光

である。本集は『富士・まぼろしの鷹』に次ぐ第二句集。俳句個人誌『富士山麓』(ウェブ版)の創刊号(2012年9月号)から2017年8月号までの5年間の句からの自選である。初出がウェブ上なので、(俳句・佐々木敏光・富士山麓)のいずれか2語の検索で画面がでるが、毎月相当数の句が発表されており、多作の作家である(俳句をほとんど作らない俳人の愚生など到底及ばない)。従って厳選の573句ということになる。
 巻尾に、前書風の短文に句が置かれた章がある(面白い)。ただ、他にも前書のほどこされた句が多いが、これはこれで、句の背景がよくわかるのだが、読者にとっては、一句の謎がなくなるというリスクがあろう。前書がなければ、読者にはより広がりが生まれる。つまり、前書の答えとしての一句が用意されているのである。その分、作者の生活ぶりがよく伺えるのだが、平明すぎるというものではなかろうか。平明でも句は謎を秘めて読者にあれこれ想像させる方が、より楽しめるというものだ。どのようにも書ける、詠める俳人であるだけに、現状肯定ではない日常の俳を育てかえせば、これぞ世に問う佐々木敏光一世の第三句集がもたらされるに違いない。
ともあれ、愚生好みの句をいくつか以下に挙げておきたい。

     順番は運
  銀漢や人順番に死んでゆく      敏光
  死は未踏初日にささぐカップ酒
     老人力
  堂々と財布わするる祭かな
     戦争
  春風や死にゆくために敬礼す
  夢の世にうつつありけり原爆忌
  わが庭の椅子登頂をめざす蛭(ひる)
  炎帝は核融合をしてをられ
     
  ふるさとは枯枝にある懸り凧
    老夫婦 体調不安が続く妻へ
  眠るまで妻の手をとる昼月夜
  滅亡へ遅刻しつづけ秋の暮
  ふらここに乗りてあれこれおぼろなり
  核弾頭飛び交ふ春の山河否(いな)
  このわれにわれパラサイト秋の暮

佐々木敏光(ささき・としみつ)1943年、山口県宇部市生まれ。




0 件のコメント:

コメントを投稿