2018年12月3日月曜日

藤原龍一郎「地下鉄南北線とは鶴屋南北の異界へ続く鉄路であるか」(『怖い短歌』より)・・



 倉阪鬼一郎『怖い短歌』(幻冬舎)、同著者のアンソロジー『怖い俳句』の短歌版である。9章に分けられ、「各章の歌人は生年順に配列し、表題以外の引用歌については末尾に章番号を付し」(「まえがき」)てある。ブログタイトルに挙げたのは「豈」同人でもある藤原龍一郎の短歌で、第8章「奇想の恐怖」に収められている。著者「あとがき」には、

 ここまで来たら短詩型文学の最後の砦(とりで)にも挑み、『怖い詩』で三部作を完結させたいものです。いつになるか分かりませんが、もはや私のライフワークの一つです。

 とある。期待して待ちたいと思う。倉阪鬼一郎のアンソロジーで同社からは、他にも『元気が出る俳句』『猫俳句パラダイス』もある。ともあれ、各章より一首は紹介したいと思う。もっとも会ったことのある歌人を贔屓して・・・。

      第1章 怖ろしい短歌
  ゆふぐれの神社は怖しかさぶたのごとくに絵馬の願ひ事あふれ  栗木京子
      第2章 猟奇歌とその系譜
  肉吊りの密かに血はしみて行方不明のひとり帰らず       春日井建
      第3章 向こうから来るもの
  日本の悪霊なれば血糊なす思想の闇を溜めて項垂る       福島泰樹
  星暗き夜半に窓をあけこゑをかく 花ばたけをとほる幽霊たちに 松平修文
  むらさきの指よりこの世の人となりこの世に残す指のむらさき  有賀眞澄
  運河から上がりそのまま人の闇へまぎれしものの暗い足跡    林 和清
      第4章 死の影
  おこたりを責めし手紙が或る夕べ死体の胸にありき読みにき   岡井 隆
  死の家より帰り来たりて萎え居ればわが尾の先が異界にとどく 佐佐木幸綱
  そこにて不意に詩を賜るか終(つい)の声じじと残して蝉がころがる 久々湊盈子
      第5章 内なる反逆者
  われや鬼なる 烙印ひとつ身にもつが時に芽ぶかんとして声を上ぐ 馬場あき子
  十通り以上の死に方語り終へ少女はおほきためいきつきぬ    伊藤一彦
  だれぞ来て耳にささやく「なめくぢはある一瞬に空間を飛ぶ」  小池 光
  みずあびの鳥をみている洗脳につぐ洗脳の果てのある朝     穂村 弘
  産むあてのない娘の名まで決めている
  狂いはじめは覚えておこう                  林あまり
      第6章 負の情念
  ほんたうにふとい骨の子になりましてこれは立派ななきがらになる 辰巳泰子
  時効まであと十五年 もしここで指の力をゆるめなければ    枡野浩一
      第7章 変容する世界
  たとへば君晨(あした)起きいで窓掛を引けば世界は終わりてゐずや 髙橋睦郎
  土手降りて橋の腹部をつくづくと見上げる 世界は終わつてゐた 佐藤通雅
  空港も未来も封鎖。だって、全人類一気に老ゆる夜(よる)、だぜ 石井辰彦
       方舟のとほき世黒蝙蝠傘(かうもり)の一人見つらむ雨の地球を 水原紫苑 
  しゅんかんの大量死つねに轟音の中に起こるやテロも津波も   松平盟子
  語られてゆくべき大災害(マグナ・デイザスタ)はひめやかに来む秋冷の朝
                                黒瀬珂瀾 
     第8章 奇想の系譜
  吸血鬼よる年波の悲哀からあつらえたごとく特殊な自殺機    髙柳蕗子 
  歌、卵、ル、虹、凩、好きな字を拾ひ書きして世界が欠ける   荻原裕幸
     第9章 日常に潜むもの
  秋霊はひそと来てをり晨(あした)ひらく冷蔵庫の白き卵のかげに 小島ゆかり
  死にかけの鯵と目があう鯵はいまおぼえただろうわたしの顔を  東 直子 



            撮影・葛城綾呂 もみぢ葉↑  
    
 

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