小林春代『大田螺』(現代俳句協会)、懇切な序文は宮坂静生。中に著者の句を評して、
ことばが鋭角的なので、ぐいぐいと読み手に迫る。迫力がある。しかし、どこか自嘲に遊びがある。いうならば自分を貶めて楽しんでいるようだ。(中略)
自嘲とは余裕がないとできないものである。自分を底へ貶めて底から這いあがる芸を見せる。そんな巧さがある。
という。集名に因む句は、
大田螺幸せすぎて地震来さう 春代
この他にも、「大」の言葉を冠した句は意外に多い。それが自ずとユーモアを加えて、句柄を大きくしているように思う。例えば、
冬帝やチャイコフスキー大序曲
大欠伸して不覚にも蠅捕ふ
大蟻の迷ひ込みたる胸の谷
山涼し大虎杖の奥にこゑ
大鯉に戒名あるや肝試し
大女の哀しみや竹皮を脱ぐ
十国峠跨ぎ山姥大嚏
麦秋の風鳴り火星大接近
という具合にだ。それに付会(「おおね」と読んで)だが「大根抜くたびに人の名を忘れをり」を加えても悪くないだろう。ともあれ、集中より以下にいくつかの句を挙げておこう。
余荷解(よにげ)屋てふ質屋ありけり燕の巣
綿帽子中に蕪のやうな顔
虎杖やマグマの上にわが祖国
蟇の沼落としてみたきものに斧
鬱の穴ひとつひとつにダリア植う
田の神の山へ凩まつしぐら
台風の緒に摑まつて逝く人も
子の消えてわんさわんさとつくしんぼ
小林春代(こばやし・はるよ) 昭和27年 長野県岡谷市生まれ。
★閑話休題・・谷佳紀「あ、いけないという日があってカレーうどん」(「つぐみ」12月号より)・・
先日12月19日に急逝との訃をうけた谷佳紀の最後の作品7句が「つぐみ」(編集発行・津波古江津)12月号に掲載されていた。作品下段のミニエッセイには、世間では立派に老人だが、電車で席を譲られると困るという話だ。ウルトラマラソンで鍛えていた身体だからだろう。電車に乗る時「席を譲るのは不要です」という看板をぶら下げようかと冗談で思ったりする、とあった。その人が心筋梗塞で急逝するのだから命は分からない。他には、外山一機の連載「『歩行)の俳句史」を楽しみに読んでいたが、8回目の今回で最終回。また、鶴巻ちしろの連載「鶴巻ちしろの折文箱」(36)は、まだ続く。
谷佳紀の句をもう2句・・
人生はひらひら赤蜻蛉は軽い 佳紀
喧嘩してきて背高泡立草ばっかり
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