2018年12月24日月曜日
大本義幸「物言わぬわれを昼月が追ってくる」(「俳句新空間」第10号より)・・
「俳句新空間」第10号(発行人・北川美美、筑紫磐井 協力・佐藤りえ 発売・邑書林)、ブログタイトルに挙げた句は、10月18日に死去した大本義幸が前号(新春帖)に発表した句の中から、もてきまりが鑑賞したものを挙げた。その玉文に、
癌を患い喉摘者として生活している大本さん。言葉を発せられないという事は常人には想像もつかないほどの辛さ寂しさがあるに違いない。その疎外感の表出として〈沼に語りかける私には声がない〉と作中にある。けれど掲句では昼の月が同胞のように大本さんを追ってくる。
〈ああ夕陽疲労まみれに真赤です〉一事が万事、常人よりエネルギーがいる生活。夕暮にはさぞ「疲労まみれに」なっていると思われる。この口語「真赤です」の切なさ。
とあった。平成最後の「俳句新空間」の「収穫帖」から一人一句を以下に挙げておこう。
冬桜行方不明の鬼はここ 羽村美和子
炒(チャオ)の音聞こえて秋の百日紅 青木百舌鳥
鰯雲だけが白くて青日和 網野月を
不死てふ業罰月光都市は白夜めき 井口時男
補助線をいつも欲しがる烏瓜 乾 草川
かつて治安維持法のあり冬帽子 内村恭子
色なき風訳なく開く納骨堂 近江文代
抱き合って殴り合っても夏の月 加藤知子
喜寿米寿鐘の音胸に血の比重 神山姫余
なにをするでもなくごちやごちやとあめんぼ 神谷 波
万歳の後の解散秋の虹 北川美美
秋蝶やメルトダウンする真実 坂間恒子
シャーロック高きに登り見晴るかす 佐藤りえ
君がため漂う花の放射線 髙橋修宏
ごきげんよう風の改札猫じゃらし 田中葉月
わたくしに最も遠い妻を抱く 筑紫磐井
色づきしものから垂るる式部の実 辻村麻乃
可愛がりすぎて兎が肥りけり 椿屋実椰
晩秋のベルリン誰も空を見ず 仲 寒蟬
亡き人の爪持ち歩く水澄めり 中村猛虎
空蝉を孕ませ開戦前夜かな 夏木 久
どう見ても不利な戦や鏡餅 秦 夕美
秋夕焼今し耀く山脈よ 福田葉子
行く夏を追ひ超すやうに強き翅 ふけとしこ
狼を待ち赤づきん老ゆ 渕上信子
もろともに時間の傘やしぐれつつ 堀本 吟
くさむらのあなたにたてる彼岸花 前北かおる
秋声に溢れてをりぬ無言館 真矢ひろみ
ZEROに似て沈みゆくなり大西日 もてきまり
一体の地蔵一本の白曼珠沙華 渡邉美保
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