今井真子第三句集『脱皮する月』(黎明書房)、著者「あとがき」の中に、
(前略)父がいなくなったことです。「お前には土の匂いのする俳句が似合う」と常々言っていました。しかし、十九歳から俳句を書きはじめた私には、それはいかにも泥臭いテーマで、若い私には馴染まず、二十年近く「早蕨」「橋」などで、言葉と遊び、青い俳句を作っていました。やがて双々子先生や夏生さんに出会って「地表」に入り、先生の「残花館」で月二回開かれる句会に参加するようになり、自然に「土の匂いのする俳句」を意識し始めました。父が見抜いた通り、、やはり私の半身は土の中にあります。これからも自分の土壌を確認しながら書き続けたいと思っています。
とあり、本集には、その父が詠んだ句も収載されている。
父が最期にベッドで書いた一句
白寿過ぎまだ生きてゐるキリギリス 豊
である。集名を「脱皮する月」と名付けられたからでもあろうが、月に関する句は多い。「月の客」といえば、俳人諸氏は、すぐにも「去来抄」に出てくる、「岩鼻やここにもひとり月の客」去来を思い起こすが、例えば本集にも、
ニッポンを論じてゐたり月の客 真子
しはぶきをひとつ落として月の客
がある。また、集名に因む句は、
屋根に来てするする脱皮する月よ
であろう。その他にも月はある。
月赫し衰へてけり村祭
月光にまみれし猫の飯茶碗
苦艾戦ぎて月の出を塞ぐ
その人と少し離れて月を見る
不意に詩が垂れてくるなり梅雨の月
風干しの魚干しの梅雨の月
ふたりゐてひとり月から落ちさうな
月天心羽毛が一枚おりてくる
月天心骨美しき歩道橋
魂(たま)といふたよりなきもの寒月光
つと出でて梅雨の月抱き戻りけり
木椅子あり芋名月が寄つてゆく
星月夜番犬の背のしめりやう
ともあれ、その他、いくつか愚生好みの句を挙げておきたい。
麦伸びて風梳くことをはじめけり
悼 坂戸淳夫さん
「冬樹」へと還るゆくなり老詩人
天地(あめつち)のあはひ秋刀魚のけむりかな
「囁囁記」措いて通草を置きにけり
囁囁忌(一月十七日)
人をらぬ文机に在る福笑
悼 伊吹夏生さん
而して夕顔の花 畢(をはん)ぬ
しらうをのなつかしくしづかなしろよ
今井真子(いまい・まさこ) 1947年、愛知県碧海郡(現・安城市)生まれ。
★閑話休題・・・大井恒行「荒芒の声とならんや春愁秋思」(「俳句」4月号より)・・・
「俳句」4月号(角川文化振興財団)の愚生の12句「春愁い」です(上掲写真↑)、自己宣伝です・・・お許しあれ!
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