遠藤由樹子第二句集『寝息と梟』(朔出版)、著者「あとがき」には、
(前略)様々な出来事があったが、私にとってこの歳月は総じて人生のよき季節であったと思う。至らぬことも、嬉しいことも、心躍ることも多々あった。たった十年ほどの月日だが、既に夢に似た眩しさを帯びている。(中略)昨日の続きに今日があり、今日の続きに明日がある。その積み重ねが何より大事だという気がしている。日々の中で、何らかの対象を慈しむ瞬間がある。その慈しむという感情を言葉にして残したいというささやかな衝動に駆られて、私は俳句を詠んできた。自分の俳句は、大切な何かを守りたいという気持ちの表れなのかもしれない。
と記している。集名に因む句は、
血を分けし者の寝息と梟と 由樹子
であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、幾つかの句を挙げておこう。
人を呑む海とは知らずに雀の子
翼にも骨あるあはれ春の雁
夕顔や人目に触れぬ鳥の耳
来年も去年も遠し返り花
齧ること好きな兎の眼を覗く
どの径に逸れても桜散りかかり
あつけなく死ぬ籠の鳥麦の秋
夏空を音なき国と仰ぎけり
草おぼろ十日十一日と過ぎ
追悼 鍵和田秞子先生
雨を縫ふ緋鯉となりて戻られよ
切株が草に溺るる日の盛
折目から傷みし手紙天高し
ゆく年の泡の色なる月仰ぐ
遠藤由樹子(えんどう・ゆきこ) 1957年、東京生まれ。
撮影・鈴木純一「蛍草 あなたは私の母ではないな」↑
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