井上弘美第4句集『夜須礼(やすらい)』(角川書店)、2008年から19年までの359句を収載。集名の由来については、
夜須礼の花傘を呼ぶはやち風
によります。「夜須礼」は京都今宮神社の摂社、疫神社の祭礼で、三大奇祭「安良居祭」の傍題です。平安時代から続く疫病退散の鎮花祭で、桜の季節に行われています。祭の主役は「花傘」で、この傘の下に入ると一年間災厄を免れるというので、人々は競って傘に身を寄せます。今宮神社は母の産土神社なので、母もまた幼い頃から花傘に身を寄せたことでしょう。赤い花傘が風に揺らぐと、母がやってくるように思えます。
とあった。「安良居祭」を詠んだ句は、いくつかあるが「夜須礼」の漢字を入れた句が、もう一句ある。
夜須礼の鬼に会いたきむらさき野
そして、恵送いただいている主宰誌「汀」7月号には、連載「読む力を詠む力へ(7)」には自身の一句が、自句自解のようにして入っているのだが、「今月の季語『滝』」には、本句集にも収載されている句、
月魄(げっぱく)となる山中の飛瀑かな 弘美
があり、その一文の最後に「この句は、夜を迎えた湯滝を想像して詠んだ一句で、『月魄』は月の精。人の消えた山中の滝に、月の精が降臨するところをイメージした。青白く発光している滝を思った」と記されていた。本句集における愚生の気に入りの句だった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を以下に挙げておきたい。
「汀」創刊 綾部仁喜先生より祝句「足跡の一筋長し春汀」を賜りて
長汀をゆく足跡冴ゆるまで
悼 綾部仁喜先生
雪嶺を仰ぎ一死を仰ぐなり
潮満ちて椿の森のくらさかな
寺町は石積みの町花木五倍子
獅子舞の茣蓙を打つたる砂塵かな
夢二忌や沈金の蝶散らしたる
砂町に波郷恋ふれば霙けり
綿菅の絹のひかりをほぐしたる
月の秋水都のみづをひとすくひ
水瓶(すいびやう)に花鳥尽くせる霜夜かな
井上弘美(いのうえ・ひろみ) 1953年、京都市生まれ。
芽夢野うのき「ルリタマアザミ十年戻ればそこにある」↑
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