2021年7月20日火曜日

井上弘美「八月が来る玉砕の鉄兜」(『夜須礼』)・・・


  井上弘美第4句集『夜須礼(やすらい)』(角川書店)、2008年から19年までの359句を収載。集名の由来については、


    夜須礼の花傘を呼ぶはやち風

によります。「夜須礼」は京都今宮神社の摂社、疫神社の祭礼で、三大奇祭「安良居祭」の傍題です。平安時代から続く疫病退散の鎮花祭で、桜の季節に行われています。祭の主役は「花傘」で、この傘の下に入ると一年間災厄を免れるというので、人々は競って傘に身を寄せます。今宮神社は母の産土神社なので、母もまた幼い頃から花傘に身を寄せたことでしょう。赤い花傘が風に揺らぐと、母がやってくるように思えます。


 とあった。「安良居祭」を詠んだ句は、いくつかあるが「夜須礼」の漢字を入れた句が、もう一句ある。


   夜須礼の鬼に会いたきむらさき野


 そして、恵送いただいている主宰誌「汀」7月号には、連載「読む力を詠む力へ(7)」には自身の一句が、自句自解のようにして入っているのだが、「今月の季語『滝』」には、本句集にも収載されている句、


  月魄(げっぱく)となる山中の飛瀑かな    弘美


 があり、その一文の最後に「この句は、夜を迎えた湯滝を想像して詠んだ一句で、『月魄』は月の精。人の消えた山中の滝に、月の精が降臨するところをイメージした。青白く発光している滝を思った」と記されていた。本句集における愚生の気に入りの句だった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を以下に挙げておきたい。


   「汀」創刊 綾部仁喜先生より祝句「足跡の一筋長し春汀」を賜りて

  長汀をゆく足跡冴ゆるまで

   悼 綾部仁喜先生

  雪嶺を仰ぎ一死を仰ぐなり

  潮満ちて椿の森のくらさかな

  寺町は石積みの町花木五倍子

  獅子舞の茣蓙を打つたる砂塵かな

  夢二忌や沈金の蝶散らしたる

  砂町に波郷恋ふれば霙けり

  綿菅の絹のひかりをほぐしたる

  月の秋水都のみづをひとすくひ

  水瓶(すいびやう)に花鳥尽くせる霜夜かな


 井上弘美(いのうえ・ひろみ) 1953年、京都市生まれ。



   芽夢野うのき「ルリタマアザミ十年戻ればそこにある」↑

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