仁科淳第1句集『妄想ミルフィーユ』(ふらんす堂)、「はじめに」のタイトルに「ひきこもり歴三十二年ー統合失調症発症 妄想のなかの日々ー」とあり、
俳句をつくりはじめたのは伝えたいことがあったから。
人に弾かれ世に弾かれしてもやっぱりひとに支えられてきた。
その感謝は誰かに何かを感じてもらえることで
昇華できるものでもないけれど。やっぱり発信したい。(中略)
そして所謂「普通」の生活を生きられることが
一番しあわせなことなのだと。
手にとってくださった方が感じてくださればと祈りつつ――
と記されていた。巻末の一句のみが一頁一句立ての以下の句であり、他は一頁二句立ての見開き4句のレイアウトになっている。
きみに会ふまでに八重桜に変はらん
句を読み、略歴などを読むと、俳句は独学のようである。因みに、句集名に因むであろう句は二句ある。
「妄想」と追はで視野に蜘蛛を追はで
秋天をあふぐ噂のミルフィーユ
の句である。ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておこう。
共に負はせてくれよ旱天に鳥
我がゐておぼろ君ゐてうつつかな
此の春のたたへてをれぬ涙かな
冬麗や聴こえむ耳孔骨に空く
泣き初めの無きや泣きをさめの無くて
疾風に捥がれて花の入水かな
新書の栞そそけをり春ふかし
露の身の悲喜にながせる涙かな
蛇足かと思ふが蛇足穴まどひ
口実に病つかはず放屁虫
カンパニュラ戀如何にうらぶれようか
冬鵙の法に触れなばかまはぬか
些事あまたある視野にも鏡餅
仁科淳(にしな・じゅん) 1971年、山形県生まれ。
芽夢野うのき「ヤブランに日の差すまえの雨やさし」↑
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