岸本葉子第一句集『つちふる』(角川書店)、集名に因む句は、
つちふるや汀の線のかく歪つ 葉子
だろうが、「つちふる」では、他に、
霾や旗の余白に名の数多
の句がある。こちらの方が味わいが深いかも知れない。また、「あとがき」には、
(前略)残すことは考えていなかった。兼題や席題、遭遇した事物をきっかけに、思いがけない十七音が自分の中から出てくる驚き、その場を人と分かち合う高揚感のうちに過した。
立ち止まったのは二〇二〇年、疫病の蔓延のため句会に集うことができなくなったときだ。散逸してしまわないうちに保存しよう。緊急事態宣言のため家にいる時間がかつてないほど長い、今しかない。(中略)
ひとりの作業も、孤独ではなかった。一句一句に、その句の生まれる場を共有した人々を思い出していた。句の数は、参加する句会の定まった二〇一三年以降が圧倒的だ。作句における句会の存在の大きさを実感する。
とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
嚏して酒のあらかたこぼれたる
土を蹴り木の根を踏みて神遊
伝鎌倉街道烏瓜の花
秋扇をたたみて軽したたまぬも
石段の先は水際秋の昼
水音か枯葉のこはれゆく音か
四畳半・裸・経済学序説
外套や消えゆくものに革命歌
暴虐と伝はる王の裘
さうあれが海市のくづれはじめなる
死なないでゐるから餌をやる金魚
月光を攫ひて戻らざる波か
凍鶴をもつて墓標となせと文
ひとつだにこぼれ落ちざる昴かな
岸本葉子(きしもと・ようこ) 1961年、神奈川県鎌倉市生まれ。
★閑話休題・・・日本現代詩歌文学館・10月10日(日)「きたかみ鬼の国 俳句フェスティバル」(於・さくらホール)・・・
日本現代詩歌文学館・10月10日(日)「きたかみ鬼の国 俳句フェスティバル」シンポジウム「怖い俳句を語る」。シンポジスト/募集句選者は、宮部みゆき・夏井いつき・神野紗希(コーディネーター)。当日句(一人一句)選者は白濱一羊・照井翠・高野ムツオ・粟津ちひろ。当日句の受付は午前11時~12時半。
・当日参加(無料)は、募集句への応募が条件。
★作品募集 締切 8月10日(火)必着
応募料 2句一組/1000円(専用応募紙は詩歌文学館ホームページからダウンロード)。
応募先 024-8503 北上市本石町2-5-60
日本現代詩歌文学館 俳句フェスティバル 係
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