江田浩司著『律(りつ)ーその径(みち)に』(思潮社)、本扉には、著者と岡井隆のツーショット(未来新年会・1993年1月7日)と献辞「本書をわが師岡井隆の御霊に捧げる。」がある。内容は、詩篇、歌篇はもとより、句も鏤められているが、それは,果して句なのか、歌なのか、あるいは連句風に仕立てられた詩篇となるのか、愚生には見当がついていない。もちろん、それらは、一首としても一句としても読めるし、数行の詩としても読めるという眩暈に満ちている。最後の5章は、献辞にもあるように、文字通り「〈あゆみ寄る余地〉眼前にみえながら蒼白の馬そこに充ち来(こ)よ 岡井隆『朝狩』」を据えて、「О氏に」と付されて、10首が並ぶ。その冒頭三首は、
それ以後の三十四年うたはあり髭の歌人に逢ひて青夜(せいや)へ
さまよへる詩(うた)のゆくへをたづねたり遅れて来たる蜻蛉(せいれい)として
『朝狩』の扉をひらき幸福が、いや人生があけたと思ふ
である。そして、集名ともなった「律ーその径(みち)に」は第4章であるが、そこから「径」にからむ歌をいくつか引用しよう。
この空にはほそき径(みち)ありいまだなほ読みあぐねたりトリン・T・ミンハ
はくめいにひかりを孕みこしゆゑに思惟なす径(みち)をしめすうた人
さまよへる径(みち)にしるせることの葉のつばさあるべし夢にとぶべく
ひさかたのひかりの径はきえのこりきぬぎぬの書にさめし歌くづ
その道はやさしさだけがゆくだらう人のこころをしるひとの手に
ちひさなる詩へんのしらべそのなかにわたしを終はるそらのみちあり
そして、「律」、
うつくしい律(りつ)がわらつたうすさむい風のながるることの葉のうら
最後に、第2章の「聖ニキ・ド・サンファルに捧ぐ壱〇壱の詩(うた)」から、連句風に配された詩句(歌の前書風にも見えるが)を、まったくつながりを無視してアトランダムに以下に記しておきたい。
ライフルを構へるニキや冬の星
弾丸は空を趨りてその痕(あと)を追ふ音や澄み明けをわたらむ
人語なく影のみ水に落ちにけり
風花はひかりの華となりて舞ふ寒林の影縦横に落ち
ニキへの手紙 冬の燕に託したき
東方の女神に宛てて書く手紙 あなたは抱きぬ過去一切を
木枯らしに蝶の羽音を聞きわける
冬の蝶うすき光の谿を飛ぶ詩(うた)のゆkへに翼をうちて
天狼やうすき血のぼる旅をして
冬の星ながるることを夢に見むこの旅をしも二キの手の痕(あと)
江田浩司(えだ・こうじ) 1959年、岡山県生まれ。
撮影・鈴木純一「着衣のマハ/裸のマハ/骸のマハ」↑
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