2022年3月26日土曜日

今井鴨平「死の灰の微塵いづこに 胡瓜の青」(「川柳スパイラル」第14号より)・・


 「川柳スパイラル」第14号(編集発行人・小池正博)、特集は「今井鴨平と現川連の時代」、対談に飯島章友と平岡直子。門外漢の愚生には、今井鴨平は馴染のない名だった。小池正博「今井鴨平と現川連の時代」から、少し引用しよう(長文なので、本誌に直接当たられたい)。 


 昭和三十九年二月十日三時四十分、現代川柳作家連盟の委員長・今井鴨平は岐阜県内の旅先で倒れ、心不全のため急死した。「現川連」(げんせんれん)は現代川柳作家連盟の略称で、鴨平は創立当初から委員長をつとめた。鴨平が亡くなったという知らせは、各地の川柳人に衝撃を与えた。(中略)

 鴨平が川柳を書き始めたのは昭和十四年ごろで、「こがね」に作品を発表している。

  噴水の義憤暑さへ抗議する(昭和十四年七月号)

それまで鴨平は短歌を作っていたようだ。短歌から川柳への移行を彼はこんなふうに言っている。

 「僕は永らく短歌に精進した。そして短歌ほど民衆的な文芸はないと信じていたが、川柳は短歌より更に民衆的である」。(中略)

 すでに一九六二年の第六回総会(東京)で鴨平は「無形象」を廃刊して「川柳現代」を発行すると発表」、「川柳現代」は同年七月に創刊された。「川柳現代」は現川連としてではなく、鴨平個人の仕事として発行するというのである。即ち、革新川柳の雑誌を発行するときに、現川連という組織を背負うよりも個人として活動する方が動きやすいということだったろう。「現代川柳」誌は現川連の機関誌とは言うものの実質的には鴨平個人の負担によって発行されていたことが背景にある。(中略)

 山村祐の『短詩試論』は一九六〇年に、『続短詩試論』は一九六三年に刊行された。ここでは『続短詩試論』について金子・林田・高柳などの現代俳人が寄稿している。山村祐の著作、また今井鴨平の雑誌でなければできない企画であり、柳俳交流の視点からも重要である。髙柳重信の次の言葉は今でも響いてくるものがある。

「しかし、本当に、この十七音前後の短詩型定型は、それが現代俳句であろうと、現代川柳であろうと、果して、そんなに信頼するに足る形式なのであろうか」

 この15号は特に充実している。髙柳重信の評論は重信の研究者でも知らない人が多い、貴重なものである。鴨平の目指していた「現代川柳」の総合誌はようやく実現されるかに見えた。けれども、終焉は突然やって来た。


 そういえば、愚生が現代川柳の時実新子など幾人かを知ったのも、高柳重信編集時代の作家作品欄であった。「今井鴨平作品抄」があるので、そこからいくつか句を挙げておきたい。


  風によろめいた沓の底がない         鴨平

  ポケットで成る 昨日のマッチである

  蟻の往路に遮断機の影がない

  匍匐してみんな思想のコマ切れを食べる

  せめてその墓穴 虹の起点とせよ

  雲の裂け目の それだけの光を咥える

  孑孑の屈伸 波紋とはならず


 ともあれ、本号より、本誌同人を中心に一人一句を以下に挙げておきたい。


  じゃあねって君が残したのは刹那      樹萄らき(じゅどう・らき)

  滅ぼした者に聞えるパピプペポ       西沢葉火(にしざわ・ぱぴ)

  ひとことの滞空時間 春眠す       清水かおり

  蝶々と球体を追いかけてゆく        畑 美樹

  新バージョン試すときには呼びにゆく    浪越靖政

  ゴキブリである 無論 名は無い      石田柊馬

  毛布にもきっと挽歌は沁みたはず      湊 圭伍

  振り向いた赤ん坊 蝶にたたかれて     小池正博

  行灯に小倉億人一首ゆれ          川合大祐

  電球の切れる間際に散るひかり       飯島章友

  右膝の断固きげんのわるい冬        一戸涼子

  スリッパの左右それぞれ夏と冬       悠とし子

  おきあがりこぼしとこぶしせちがらい    兵頭全郎


★閑話休題・・「現代川柳のこれからー『川柳スパイラル』創刊5周年の集い」・・


 「(前略)今夏に創刊5周年の集い(午前は川柳フリマ、午後は座談会と川柳句会)の開催を計画しました。川柳人だけでなく、短詩型文学にご関心のある方々のご参加をお願いします」とある。


・日時 2022年8月6日(土)11時~17時

・会場 北とぴあ 第一研修室(定員84名)

    東京都北区王子1-11-1 JR王子駅北口歩2分

・当日の予定 11時 開場:川柳フリマ

 *出店のご希望の個人・団体には机1椅子2を提供。参加費1000円当日徴。フリマ出店のお申込みは7月20日まで。

第一部 13時10分~14時 【対談】平岡直子vs暮田名

*投句締切

第二部 14時30分~15時20分 【座談会】飯島秋常・川合大祐・湊圭伍

第三部 15時50分~16時50分  川柳句 各題2句 「当たる」「外出」「お菓子」「逆流」「七七形式の句」「雑詠・自由吟」

・会費 1000円

・参加申し込み 小池正博まで 594-0041 和泉市いぶき野2020-8

                 tel/fax 0725-56-2895  



     芽夢野うのき「さくら吹雪くまでわたくしを匿え」↑

2 件のコメント:

  1. 初めまして。樹萄らきと申します。このような場所に取り上げてくださり、ありがとうございました。
    孑孑の屈伸 波紋とはならず
    うまくコメントできないのですが、この句に立ち止まりました。  らき

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  2. お便り有難うございます。ご活躍、ご健吟祈念! 大井

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