「ふらんす堂通信」172号(ふらんす堂)、本号には、書き下ろし特別寄稿が2編ある。高橋睦郎「小島明句集『天使』を読むー出会うということ」と八木幹夫「酒井弘司句集『地気』を読むーガイア(地母神)の歌」。いずれも読み応えがある。酒井弘司は、すでによく知られた俳人なので、ここでは、愚生の初見の小島明について、高橋睦郎の部分を引用しておきたい。
(前略)この道の作者については同名句集巻末に詩人中上哲夫の「猫さんという俳人」、同じく関富士子の「付記」があって、おぼろげに知ることができる。彼は二〇〇五年から故白川宗道が主宰するJ句会という詩人・俳人混合のゆるい句会にまねき猫なる俳号で参加して猫さんと親しまれていた、それが昨二〇二一年三月、関富士子にメールが届き、膵臓に腫瘍が見つかったという告白と、最後に句集を一冊くらい遺したいので相談に乗ってほしい、と言ってきた、という。
ふだんは寡黙だった彼がすこしずつ静かに自らを語りはじめたのはそれからで、敬愛する俳人たち(安東次男、飯島晴子、攝津幸彦、田中裕明など)と個人的な対話を続けるつもりで細々と句作してきた、入院してからは「ことばの日々」が始まり、それこそが自分のしたかった生活だったのだという高揚感がある、などと語った、という。
そして、その論の終りに、「高橋睦郎抄出『天使』五十句抄」が置かれている。そのなかから、愚生好みにいくつか紹介したい。
狐とはああこんなにも痩せてゐて 明
たましひもおほよそ水と知る秋ぞ
芒原みな去りてみな此処にゐる
水澄みて且つ水音の澄みにけり
梅の香やときどき風を乗り換へて
小島明(こじま・あきら)、1964年、滋賀県生まれ。2021年5月没、享年56とある。ともあれ、本誌本号より競詠俳人の他、一人一句を挙げておきたい。
春風と思えば嬉しあぁ寒し 池田澄子
白猫の亡き家灯し草の餅 大木あまり
亡きひとは声漏らさずよよもぎもち 小澤 實
青山河声を挙げねばわれ在らず 酒井弘司
ごろり寒卵わが前のふいの言葉よ 上田睦子
撮影・鈴木純一「夜目遠目あやめたひとは好きなひと」↑
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