堀本裕樹第二句集『一粟』(駿河台出版社)、集名に因む句は、前書のある次の句であろう。
俳誌「蒼海」創刊
滄海の一粟(いちぞく)の上や鳥渡る 裕樹
また、著者「あとがき」の中に、
(前略)同時に拙句「蒼海の一粟の上や鳥渡る」を踏まえた。この成句は北宋の詩人・蘇軾が記した『赤壁賦』を出典とし、宇宙における人間の存在の微塵を、広大な青海原に極めて微小な一粒の粟が漂っていることに譬えている。私は句作しながら、己の存在の卑小を痛感し、無辺なる宇宙の広がりや自然への畏怖の念をさらに強く意識するようになっていった。湘南の片隅に居を移し、日々海を眼にしながら千変万化する波の光景を目の当たりにするようになってから、一層その感が増していったといえる。
私という人間はこの宇宙において、一粒の儚い粟に過ぎない。大海の波間に漂い翻弄されながらも、生きていくしかない。
とあった。ともあれ、愚性好みに偏するがいくつかの句を挙げておきとぃ。
霜の花倒木すこしづつ沈む
首すぢに蛭のやうなる落花かな
狂気狂喜いづれともなき鵙のこゑ
秋の虹くぐれぬ鷗ばかりかな
どの駅に降りても夜寒どこに降りむ
みんなみに行く道に蝶凍ててをり
目に見えぬ傷より香る林檎かな
地を祝(ほ)けるにはくなぶりや初御空
蟇穴を出でて落ち合ふ蟇もなし
雛罌粟に羽あるものの来ぬ日かな
凍雲を裂く日千手となりて海へ
脚一つ浮く空蟬の傾ぎかな
八木重吉の詩「素朴な琴」より名付けぬ
琴世の名奏でよ風よ爽やかに
生臭きものうらがへす野分かな
堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)1974年、和歌山県生まれ。
撮影・鈴木純一「終はりまでひとりしづかは待つことに」↑
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