2015年6月12日金曜日

前田吐実男「何から何までぐだぐだの年詰まる」(『ぐだぐだ是空』)・・・



前田吐実男句集『ぐだぐだ是空』(東京四季出版)は、句集名も面白いが、句もなかなか諧謔、皮肉なスピリッㇳのある近ごろでは、希なる句集である。
卒寿を迎える著者はまだまだ意気軒昂なのだが、さすがの強気も、一回りも若き妻・前田保子を亡くしての句には悲哀が満ちている。集中にひんぱんに登場する狸も、もちろん前田自身のことであろう。

   俺猫だと深夜に亡妻(つま)の置き土産         吐実男
   亡き妻が座っておりぬ菊膾
   亡き妻の着物にすがる冬の蠅
   花虻も亡妻(つま)もごちゃごちゃほたる袋の中
   保子の宵待草よ今宵は何処へ行ったやら
   保子が落ちて来たかと思う藪椿  
   亡き妻の薔薇カルメンが炎えている
       七月二十日 保子の三回忌を修す
   熱帯夜敷かれた尻を懐かしむ
   
さらに、社会的な関心も衰えることを知らない句群もある。

   天高し原発ゼロも馬の耳
   げじげじよ俺にナンバー付ける気か
   三猿にされてたまるか憲法記念日だ
   
とはいえ、きわめつきは「癌共闘へまっしぐら」の章かも知れない。

  生きて一年だとさ大寒に念押され
  余命一年蝋梅に俺狼狽す
  蛇穴を出て癌共闘へまっしぐら

昨年8月に肺癌を告知され、その余命一年がもう少しでくる。救いは「抗癌剤(エレッサ)が劇的に効き、後は自宅静養」(あとがき)でこうし句集上梓の運びとなったようで、愚生は、抗癌剤のもっともっと劇的な効果があることを期待し、見事、卒寿の坂を登り切ってほしいと祈念している。

  俺が俺の句碑に焼香花の下
  風が出て益々光る枯芒
  極月や巨大三日月魔女の鎌



                  クリの花↑
  

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