2020年8月18日火曜日

川越歌澄「をととひとあさつて通し蛇の衣」(『キリンは森へ』)・・




 川越歌澄第二句集『キリンは森へ』(俳句アトラス)、表紙装画も著者、集中にキリンと茸にまつわる句が多いが装画にも。「あとがき」の冒頭は、

 キリンはもともと森で暮らしていた動物で、独特な模様は木洩れ日に紛れるためと聞いたことがある。警戒する相手に対しては正面を向いて直立し、木のふりをする。どこにいてのキリンは森の一部なのだ。

 と記され、また、

 第一句集『雲の峰』から九年を経た。その間十数年ぶりに関東に転居し、SNSに手を出し、上野の博物館や動物園に通うようになった。
 あまり広くない運動場で黙々と餌を食む(そして反芻する)キリンの「ヒナタ」の姿に幾度か救われた。ツイッターやフェイスブックを通じて句を呟いたり超結社の句会に参加したりという経験は、自分の俳句を見つめ直す機会になった。別れと出会い、嬉しい再会もあった。(以下略)

 集名に因む句は、

   居待月キリンは森へ帰るのか    歌澄

 だろう。他のキリンの句も挙げておこう。

   総落葉キリンの夢が燃えてゐる
   薔薇園に微風キリンは眠らない
   横濱のキリンを殖やし秋の風
   立春やキリンのこぼす草光る
   ゆるゆるとキリンの尿る大暑かな

 また、帯の惹句には、「第一回北斗賞受賞作家待望の第二句集」に続けて、

 「ただ水のように生きていればいいんだ。」(須藤恵子 九十一歳)

 俳句の手ほどきをしてくれた先生が云った。そこへ行かなければ見えない風景があることを、俳句を通じて知った。もう少し、流れてみよう。

 とある。ともあれ、集中より、愚生好みの句をいくつか挙げおきたい。

  階段のここから過客二月尽
  帰去来兮(かへりなむいざ)梅雨茸の出ては消え
  声問(こえとい)に砕くる波濤鳥渡る
  竹の春いま来た道の消えてをり
  武器祭器もとをひとつにかげろへる
  見送りしのち見送られ寒北斗
  亀前進たんぽぽを食ひまた前進
  揚雲雀この世の畦に戻りけり
  久久能智神(くくのちのかみ)の目こぼし月夜茸
  その後もひとすぢの道辛夷散る

 川越歌澄(かわごえ・かすみ) 1971年、東京都生まれ。
  



        撮影・鈴木純一「十五日つくしこひしと後じさり」↑

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