2014年12月22日月曜日

『昭和俳句作品年表(戦前・戦中編)』・・・



俳句にとってじつに貴重な書物が刊行された。『昭和俳句作品年表(戦前・戦中編)』(編集・発行現代俳句協会 発売・東京堂書店、2700円+税)である。俳句作品年表を作る案は、もとは現代俳句協会創立60周年記念事業として平成18年6月17日に立ち上がったという。雑誌の初出にあたり、表記を確認するなどのなかで、亡くなられた委員や、東日本大震災など、曲折を経てようやくなった一書である。すでに8年の歳月を要したということになる。さらに今後は戦後編に取り組んで行くとのことである。そうすれば、昭和という時代に書かれた俳句表現の来し方、更新され続けた俳句作品の志が一望できることになる。宇多喜代子は「おわりに」で、

これまでの俳句辞典や研究書などに附された「俳句史年表」は主に俳壇の動向や目立った俳人の句集の刊行年、俳誌の創刊などの記載が多く、それはそれでおおいに参考になる内容ではあったのだが、いわゆる流派党派を越えた俳人たちの作品を網羅した「俳句作品年表」というものがなかった。

本書に入集した句はあくまでも全俳句の一部であり、疎漏も多いことと思われるが、昭和を知らないお若い方々の、「昭和俳句」を知るきっかけ一端になればいいと思うばかりである。

と述べている。また、「はじめに」では、宮坂静生現代俳句協会会長が、以下のように記している。

従来から、昭和の俳句に関し、基礎資料がないわけではない。俳句家結社の動向や俳壇の状況や俳句運動についてまとめられた記録はある。しかし、俳句表現を重視して、その展開を跡付ける俳句作品年表は今回はじめてまとめられたものである。(中略)

纏められた俳句年表の特徴は編年体により昭和元年(一九二六)から昭和二十年(一九四五)まで四章に分けられ、作品は各省別に年次ごと、アイウエオ順に配列されている。
 一章は昭和元年から六年まで「ホトトギスの隆昌」、二章は昭和七年から十年まで「新興俳句運動起る」、三章は昭和十一年から十五年まで、「無季新興俳句の成熟」、四章は「昭和十六年から二十年まで「太平洋戦争下の俳句」がそれである。

そして、巻末に附された川名大「昭和俳句の軌跡ー解説にかえて」は貴重な俳句史を描き出し、懇切丁寧である。
俳人にとって座右に置きたい欠くべからざる一書となるにちがいない。
最初と最後部分を紹介しておこう。

【昭和元年】
雛の座にカチカチ山の屏風(びやうぶ)かな    相島 虚吼
水洟や鼻の先だけ暮れのこる            芥川龍之介
炎天や人がちいさくなつてゆく            飛鳥田孋無公
案山子翁あち見こち実や芋嵐            阿波野青畝
極寒のちりもとどめず巌ぶすま           飯田 蛇笏
死ぬものは死にゆく躑躅燃えており        臼田 亞浪
わらやふるゆきつもる                荻原井泉水
入れものが無い両手で受ける           尾崎 放哉
レール闇から曲がつてゐる             小沢 武二
凩のいづこガラスの割るる音            梶井基次郎
ねこに来る賀状や猫のくすしより          久保より江
したたかに水をうちたる夕ざくら          久保田万太郎
シャツ雑草にぶつかけておく            栗林一石路
     以下略 

【昭和二十年】
玉音を理解せし者前に出よ            渡辺 白泉
二日月神州狭くなりにけり             渡辺 水巴
鷹舞へりつねのごとくに天ヶ岳          吉岡禅寺洞
炎天の遠き帆やわがこころの帆         山口 誓子
芋の軸捨てたるごとく干すごとく         八木三日女
我が家の対岸にきて春惜む           森田 愛子
地に墜ちた椰子に蟻くる終戦日         宮崎 重作
いつせいに柱の燃ゆる都かな          三橋 敏雄
敗戦のただ中に誰ぞ菊咲かせし        三橋 鷹女 
門とぢて良夜の石と我は居り          水原秋桜子
みちのくに田螺取り食ひ在りと知れ      松本たかし
降る落葉椅子の形に椅子の荷着く      松原地蔵尊
   十五日妻を焼く終戦の詔下る
なにもかもなくした手に四枚の爆死証明   松尾あつゆき
妻の掌のわれより熱し初螢           古沢 太穂
徐々に徐々に月下の俘虜として進む     平畑 静塔
山茶花やいくさに敗れたる国の        日野 草城
  以下略

ハナヤツデ↑

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