2015年3月2日月曜日
秦夕美「雛の夜のみだりがましきお菜箸」(『五情』)・・・
『五情』(ふらんす堂)は秦夕美の第16句集である。個人誌「GA」発行人にして「豈」同人。句集の他にも句歌集、句文集、エッセイ集に『火棘ー兜子記憶へば』『夢の柩ーわたしの鷹女』『赤黄男幻想』など多くの著作を持つ。このたびの『五情』の装丁もシンプルながら見事である。四六版変形ながら手にとれるほどによい大きさ。グリーンのクロスの表紙に句集名と著者名は金の箔押し。本文の文字色はグリーン。「あとがき」によると「辞典にある五色は、青黄赤白黒で、緑は入っていない」とのことで文字のインク色は緑を選んだのだそうである。
ちなみに、「五情」は喜怒哀楽怨のことで、眼・耳・鼻・舌・身の五根が情識を有するという。秦夕美が六十年抱え込んでいたという言葉なのだ、という。どうやら喜寿の記念の上梓のようでもある。
多才・多彩な人である。
部立ては四章、これも「喜びの冬」「怒れる春」「哀しき夏」「楽しむ秋」と喜怒哀楽を表わし、「怨」を抜いている。自身、こうした仕掛けを楽しんでいるのであろう。
どのようにも表現できる技と力をお持ちだから、どの句を挙げてもよいが、以下にいくつかを記しておきたい。
鶴舞へり夕日を抱く形して 夕美
菱餅のまだとヽのはず道の駅
鳥食みや小石にまじる雛あられ
その角のあるがたふとし冷奴
露草に吸はるヽ星の名残かな
死神はいかな匂ひぞ豆の飯
秋波にはとほく色なき風の先
あの世とは爽籟のなか鳥が鳴く
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