月波代生・散文集1『にぎやかな落とし穴』(満天の星)、解説は熊谷岳朗「乾杯」、その中に、
さて、与生さんのペンの強さは何かというと、実践を伴っているからであろうと思う。かくて紫波に突然訪れたごとく、全国各地の大会や句会にも積極的に足を運び、それぞれの良さ弱さを分析し続けている事。(中略)いわゆる自らをも鍛えながら歩み続けている事。そのほかにWeb句会にも参加したり、自身もまた「月波与生と川柳部屋」のブログを開設したり、「川柳の話」等も発行するなど、常に川柳に挑戦し続けているからであろうと思う。
と記している。また。著者「あとがき」には、
(前略)『与生の川柳ってなんだ』という初心者らしいタイトルで始めたページ、最初の数回は好きな川柳について書いてたものの、当然ながらすぐに書くことがなくなり息切れ、それからは毎月一冊以上句集を読んで勉強して書くという必死で地味な生活が続いた。
それが七十回を超え現在も続いているのは、稚拙で野暮な原稿を提出する自分を励まして続けさせてくれた『せんりゅう紫波』発行人である熊谷岳朗さんのおかげである。
二〇一三年にこの二人に会わなかったなら、いま川柳を続けてなかったろうし、この本の誕生もない。
という。この二人のうちのもう一人は「毎月二ページで川柳について何か書いてみない?と誘ってくれたのは徳田ひろ子さん」なのである。散文集なので、多くを紹介するのは困難だが、「分断される川柳、接続する川柳~いま『現代大衆川柳論』を考える」から、結びの部分を引用しておこう。
(前略)『現代大衆川柳論』(愚生注:斎藤大雄)は、「わかる川柳、わからない川柳」に分断してしまい「分かる川柳が現代大衆川柳である」としたところに最初の躓きがあった。
それを当事者目線ではなく神の目線のような上位から論じたところに次の躓きがあたった。
川柳を分断していくのではなく、この時代を生きる者同士が接続するためにツール、つながっていくための方法として川柳を書く、川柳を読む。
そのことを意識的に進めていくことが、現代大衆川柳のはじめの一歩になるのではないかと考えている。
と、述べる。ともあれ、アトランダムになるが、本書の中に引用された柳句のいくつかを以下に挙げておこう。
外ばかりみている地震後の動悸 北村あじさい
トンネルに列車が入るそれだけの風景 大島 洋
日章旗ベッタリ垂れた蒸暑さ 鶴 彬
のぼったらおりねばならぬじんばらうん 広瀬ちえみ
人魚棲む町の模型にきょうも雨 川合大祐
ぎゅっと押しつけて大阪のかたち 久保田紺
鶴などに折られた紙は眠れない ひとり静
きりんの死きりんを入れる箱がない 松田俊彦
どこを押しても答えてしまう針ねずみ 佐藤とも子
錆びてきた合鍵すこし重くなる 澁谷さくら
出て行った窓をしばらく開けておく 米山明日歌
どこまでが闇だろ辞書を引いてみる 大石一粋
寝る前に飲むしあわせになる薬 鈴木節子
つらかった時の写真も貼っておく 荻原鹿声
まだ言えないが蛍の宿はつきとめた 八木千代
自画像に三つ目の目を描き入れる むさし
この世という地図にぼんやり立っている たむらあきこ
しおり抜く本も自由がほしいのだ 星井五郎
もう開けていいよと父の遺言書 岩間啓子
みずみずなみみずくみみずみずみずし 高橋かづき
待つことにしたのちょっとだけ先で 笹田かなえ
ずぼらではありますがおっぱいがある 守田啓子
肉屋から人の声しか聞こえない 徳田ひろ子
ジョギングの夫婦で同じ靴の減り 真島清弘
道化師が笑うああ痛いのだろう 水品団石
二の腕のぶつぶつ今日は卵の特売日 奈良一艘
振り向けばらっきょうだけに見送られ 月波与生
怒鳴るの?読むの?問うの?繋がるの? 柳本々々
月波与生(つきなみ・よじょう) 1961年生まれ。
撮影・中西ひろ美「トンネルを出て夏霧へ行く汽笛」↑
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