十六世川柳 青田川柳作品集・平宗星編『牛のマンドリン』(あざみエージェント)、その「はじめに」に、著者の〈私の川柳観〉が掲げられている。
十四世川柳 根岸川柳先生は「川柳は日本独特の短詩であり、凝縮とスピードが大切だ」といわれた。私の川柳では、形式よりも内容が重要であり、言葉の意味よりもイメージが重要である。
私の川柳の三要素は、(1)「凝縮」(2)スピード感(3)「ベクトル」である。この三要素によって川柳は平面的なものから立体的なものとなり、ピカソやダリの現代絵画のようなイメージ豊かな比喩表現を用いた現代川柳となるのである。
とあり、解説風の平宗星「十六世川柳 青田川柳論/シュールな原風景 モダニズム川柳への道」のなかには、本集名ともなった句、「牛のマンドリンを聴く騎兵ー秋の胃」について、
「牛」という漢字から作者は「牛」のふっくらした乳房を連想し。その形状から「マンドリン」をイメージした。また「マンドリン」のイメージから「騎兵」の耳には心地よい音楽が聴こえてきたのだろう。作者はシュルレアリスムの手法を用いて「牛のマンドリン」という独自のイメージから、「マンドリン」という独自なメタファーを創造している。
私はこのモダニズムの川柳には敗戦直後の日本を生き抜いてきた若者の原風景が描かれていると思う。昭和二十年の「秋」のある日、負傷した若い「騎兵」が日本に戻ってきた。飢えと性欲の極限状況の中でその若者は「牛」の乳しぼりをしている風景をじっと見ている。「騎兵」の頭の中には、「牛のマンドリン」のイメージから豊満な乳房をもつ女性の姿態と歓喜の声が聞こえてきたにちがいない。
さらにこのモダニズムの川柳は、「騎兵」のあとに「ー」(ダッシュ)が入り、「秋の胃」が続く。この「ー」は「騎兵」の意識と無意識を連結している装置のような役割を果たしている。「秋」は食欲を誘う季節であり、「胃」はその食欲をあらわすメタファーであろう。
と記されいる。また、著者「あとがき」の結び近くには、
十四世川柳 根岸川柳先生は「連唱」という形式を発案しましたが、私はそれを川柳界に広く普及させたいと思っています。この形式は、俳諧のように約束ごとに捉われることなく、発句から揚句までイメージの連鎖で自由に展開したものです。私は、こうした「連唱」を通して「川柳という文芸は、どう考えようと自由である」という十四世川柳 根岸川柳先生の川柳観を継承し、独創的な表現を探究していきたいと願っています。
とあった。ともあれ、本集より愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
馬になる前の朝日が思い出せない 青田川柳
水の中で割られてゆく頭
月 マンホールを出て笑う
人間をすだれにして 鬼火がみえる
足跡を空に置いておきました
ドア開くたび歴史と花がやってくる
電柱が立っている 舌を届けにいった
坂道で生活が転がってきた
ポケットに虚兵かくして花火
山は紫 抜けると戦争だ
口から船が出るぞ 舌を乗せてね
青田川柳(あおた・せんりゅう) 1928年、兵庫県神戸市生まれ。
撮影・中西ひろ美「休日は屋上で澄みきっていたい」↑
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