2022年4月19日火曜日

戸恒東人「春の夜やこころざしてふ『誌』の旁(つくり)」(春月自註俳句シリーズ1 戸恒東人句集〈1〉)・・


 春月自註俳句シリーズ1『戸恒東人句集(1)』(雙峰書房)、その「復刻改訂版へのあとがき」に、


  春月自註俳句シリーズ『戸恒東人句集(1)』は、平成十三年に俳人協会から刊行した自註現代俳句シリーズ『戸恒東人集』の覆刻改訂版である。(中略)

 制作年は、昭和四十五年から平成十一年までの二十九年間。私が大蔵省に入省し、退職した直後までで、年齢的には二十四歳から五十三歳までの間である。歌人であった父は、平成元年に七十六歳で亡くった。父の亡くなった年齢に達したいま、繰り返し繰り返し思い出すことは、親子七人で過ごした懐かしい故郷下妻のことである。


 と記されている。本集より、一・二抜粋する(原句のルビは省略した)。


   運動会消えたる国の旗つらね     平成4年

          一九九〇年代に入ると、ソ連・東欧の国々は分離独立して

          多くの新しい国が誕生した。

                   (季語・運動会、秋)『福耳』


   この蝶は冬衛のてふよ灘荒るる     平成9年

         一頭の蝶が荒海めがけて飛んで行った。私は韃靼海峡を

         渡っていった安西冬衛の詩の中の蝶かと思った。

                   (季語・蝶、春)『寒禽』  


  以下には、句のみになるが、愚生好みで、いくつか挙げておきたい。


   自転車に紙のからまる薄暑かな      東人 

   傷にまた傷を重ねて独楽の胴 

   癇の虫封じて山の笑ひけり

   散る花も残るも白し節子の忌  (愚生注:野澤節子)

   苗売の輪車(りんしゃ)は声で人を分け

   春眠に貌といふものなかりけり

   地球儀の流されてゐる秋出水

   絵襖(えぶすま)の山河もろとも古びけり

   狐火のなほ胸中に震災忌

   梁(うつばり)に洋燈(らんぷ)吊され誓子の忌

   夢の淵(わた)瀧は調べを持ちて落つ


 戸恒東人(とつね・はるひと) 昭和20年茨城県生まれ。



       撮影・中西ひろ美「これ以上近づくと恋春の露」↑

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