春月自註俳句シリーズ1『戸恒東人句集(1)』(雙峰書房)、その「復刻改訂版へのあとがき」に、
春月自註俳句シリーズ『戸恒東人句集(1)』は、平成十三年に俳人協会から刊行した自註現代俳句シリーズ『戸恒東人集』の覆刻改訂版である。(中略)
制作年は、昭和四十五年から平成十一年までの二十九年間。私が大蔵省に入省し、退職した直後までで、年齢的には二十四歳から五十三歳までの間である。歌人であった父は、平成元年に七十六歳で亡くった。父の亡くなった年齢に達したいま、繰り返し繰り返し思い出すことは、親子七人で過ごした懐かしい故郷下妻のことである。
と記されている。本集より、一・二抜粋する(原句のルビは省略した)。
運動会消えたる国の旗つらね 平成4年
一九九〇年代に入ると、ソ連・東欧の国々は分離独立して
多くの新しい国が誕生した。
(季語・運動会、秋)『福耳』
この蝶は冬衛のてふよ灘荒るる 平成9年
一頭の蝶が荒海めがけて飛んで行った。私は韃靼海峡を
渡っていった安西冬衛の詩の中の蝶かと思った。
(季語・蝶、春)『寒禽』
以下には、句のみになるが、愚生好みで、いくつか挙げておきたい。
自転車に紙のからまる薄暑かな 東人
傷にまた傷を重ねて独楽の胴
癇の虫封じて山の笑ひけり
散る花も残るも白し節子の忌 (愚生注:野澤節子)
苗売の輪車(りんしゃ)は声で人を分け
春眠に貌といふものなかりけり
地球儀の流されてゐる秋出水
絵襖(えぶすま)の山河もろとも古びけり
狐火のなほ胸中に震災忌
梁(うつばり)に洋燈(らんぷ)吊され誓子の忌
夢の淵(わた)瀧は調べを持ちて落つ
戸恒東人(とつね・はるひと) 昭和20年茨城県生まれ。
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