椎名果歩第一句集『まなこ』(ふらんす堂)、装幀は和兎。序は小川軽舟、その中に、
(前略)例えば最初に引いた「大暑なり溜池の水浮腫(むく)みたる」。うだるような暑さの盛りに、汗がしたたるのも忘れて溜池の水面を凝視している。俳人でなくして誰がそんなことを好んでするだろうか。そして凝視の末に果歩さんは、「浮腫みたる」という言葉の出口を見つけて俳句にできた。溜池の水が浮腫んでいるという感覚は異様といえば異様だが、言われてみればそこに発見の驚きがある。ここに挙げた十句には、いずれも果歩さんが目を凝らし、耳を澄まして、何かを掴み取ろうとした濃密な時間が背後にあり、そして俳句に到る言葉の出口を見出した喜びがある。
とある。また、著者「あとがき」には、
『まなこ』には「鷹」に入会した二〇一三年秋以降の二六七句を収録している。制作年によらず構成した。句を各章に振り分けることで、自分の現在と過去、心の表層と深淵に気が付いたり腑に落ちたりすることがあったのは得難い体験だった。(中略)
句集名「まなこ」は〈眩しさに目玉引つ込む深雪晴〉の「目玉」の言い換えである。「本質や価値などを見通す力」という意味もあるそうだ。自分なりの見通す目を得られるように、物ごとの向こう側にまで目を凝らしてゆきたい。
とあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。
田楽をひよつとこ口に熱がりぬ 果歩
春夕焼火の見櫓に路地尽きる
地球儀の海溝の紺秋はじめ
終戦日洗ひたる手のすぐ乾き
年用意一番星の上がりけり
裸婦像の靡かぬ髪や小鳥来る
残月や空気抱き抜く首枕
遅き日のスワンボートに水重し
紫陽花や雨戸の固き母の部屋
月明りマリオネットは睫毛伏す
螇蚸飛ぶたびに時間のずれてゆく
春深しパタパタ時計パタッと1
蓮の葉に白昼の風伸び縮み
椎名果歩(しいな・かほ) 1977年、千葉県生まれ。
芽夢野うのき「藍色の皿にとなりていつかの銀杏」↑
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