恩田侑布子第5句集『はだかむし』(角川書店)、その「あとがき」に、
天空の書斎に恵まれた。冬は安倍川のほかほか日あたる石河原。春は木見色川の花の奥。野山に新茶のさみどりがはしれば、小瀧のそばの楓の下が涼しい。本書はその岩場を机と椅子に、水音を聞きつつ選句にはげんだ。透きとおる若楓はいつか青天井になり、木末のかなたの駿河湾は、すでに秋めく紺青の帯をながしている。(中略)
ウイーンの古都を抜けて、ドナウ川に会いに行った。(中略)あのモスグリーンの静かな水が、きな臭い黒海、戦乱のウクライナのほとりに流れ入ることを思うと。「核」と地球温暖化は、季語の本意(ほい)さえ変えかねかねない。
とあった。つい先日、澤好摩と数年ぶりに会い、歓談した。その折、本句集にも話が及び、「冨嶽三十六景」の章、冒頭の「初富士や大空に雪はらひつゝ」は、イイね、と愚生が言ったら、「そうだろ・・、句集にする前に見せてもらったとき、この句がいい、と僕も言ったんだ・・。納得してなかったようだけど・・」と返ってきた。集名に因む句は、
うちよするするがのくにのはだかむし
であろう。ともあれ、以下に、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておきたい。
身一つ容れゝば縊れ花の闇 侑布子
つゞれさせゆめには夢をあたふべし
足もとのどこも斜めよ野に遊ぶ
なきひとは在りし人なり木の芽風
形代へ吹く息けもの臭きかな
春雷の涯(はたて)へひとを送りけり
あをあをと水の惑星核の冬
二〇一八年七月オウム死刑囚十三人処刑
ハルマゲドン骨粉となる半夏生
南冥へ波上げにゆく瀑布かな
渦銀河敵も味方もサピエンス
身一つを谷に漱ぐや銀やんま
ほそ道やひかり長けたる花ふゞき
雨あしにくぼむ春水ちゝとはゝ
恩田侑布子(おんだ・ゆうこ) 1956年、静岡市生まれ。
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