2018年11月20日火曜日

樋口由紀子「いつだって反対側を開けられる」(『めるくまーる』)・・



 樋口由紀子句集『めるくまーる』(ふらんす堂)、装幀は野間幸恵。「あとがき」には、

  第一句集『ゆうるりと』(1991年刊)第二句集『容顔』(1999年)から十九年ぶりの川柳句集です。句集を出したいと思いながらもなぜかぐずぐずしていました。
 野間幸恵さんとの出会いが大きいです。『めるくまーる』は【作樋口由紀子・演出野間幸恵】で出来上がったものです。私にとっての「めるくまーる」です。

 とある。句数は約160句ほどだろうか、丁度いい。愚生は門外漢であるが、川柳の言葉の自在さにはいつも唸らされることがある。現代の俳句は詩情で勝負しようとするが、川柳はやはり底に何らかの批評性が要請される。ともあれ、集中より、いくつかの句を挙げておこう。

   キャスターがついているのが春の椅子     由紀子
   空想のかたまりである蝶ネクタイ
   ういろうは漢字で書きたい 外郎
   厚化粧だったり薄化粧だったりする笑い
   提灯を先に畳んでくださいな
   下着からはみ出しているいい気持ち
   どの部屋も老けたら老けたままでよい
   ビニールの底はニヒリズム
   空箱はすぐに燃えるしすぐに泣く
   返り点になれないものがまといつく

 樋口由紀子(ひぐち・ゆきこ)1953年生まれ。




★閑話休題・・川口ますみ「人間という砂山があり春の星」(『游神』)・・   

川口ますみ第3句集『游神』(新俳句人連盟)、著者「あとがき」には、

  (前略)游ーあそばせる、ただよう。神ーこころ、たましいの意である。人生をこのように生きられたらどんなに幸せであろうかと己の未熟さも省みず厚かましい希みを抱いている。文字面も大いに気に入っているのだが、「書」作品にはいましばらく鍛錬が必要と思っている。先ずは第三句集の表題とした。

 というように、もとは書道家らしい。従って題箋も著者(川口昌葉)なのであろう。「赤旗日曜版」の俳句選者を務めておられる。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。

  麦こがし母も昭和も噎せており      ますみ
  荷物下げねば転んでしまう冬の坂
  祭囃につづく軍隊行進曲
  加害より始まる戦春の雪
  アフターヌーンティーは薔薇の香のち介護
  人類は鉄板の上青あらし
  つらつら椿分けて真昼の救急車
  泣くちから嘆くちからも冬鷗
  筍を煮ており遺言書いており
 
 川口ますみ(かわぐち・ますみ)1939年、大阪死生まれ。

   

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