2018年11月1日木曜日

佐怒賀正美「新涼や詩書に仕上がる紙ロール」(『無二』)・・

 


 佐怒賀正美第7句集『無二』(ふらんす堂)、帯もなく、実にシンプルな装丁の句集である。著者「あとがき」には、静かなたたずまいの著者にして、志の勁さを思わせる部分を以下に抽いておきたい。

  「いのち」を万物について考えるとき、原発、兵器、環境汚染など、是非ゼロへと収斂させたい。間違っても、他国に売り込みに出かけるなどあってはならない。自分の国を大切にするとは、相手の国の人々をも同じように大切に思うことである。(中略)
 俳句に話を戻すと、私自身は、それらの基本的態度の上に生活し、俳人として自由に文芸的試行をしながら、俳句の世界をさらに開拓していきたい。私自身にとって、俳句は「文学の端くれ」である。私をひきつけてやまないのは、自然や風土の中で育ってきた最短定型詩の、感受性と想像力に満ちた「詩」のあり方であり、虚実鬩ぎ合う現実生活に根ざしながらも、想像、幻想、深層意識なども内包する「総体としての人間」の自由な表現世界の多様性である。
 これからも、奢らず、卑下せず、諦めず、ロマンをもって、俳句における私自身の表現領域を拓いていきたい。

 と記されている。句々は、それらの品格をよく備えていると思う。ともあれ、集中より愚生好みの句をいくつか挙げておきたい。

     父は八十七歳
  誤報出撃せし父にして生身魂      正美
  カレンダー裏の光沢虫すだく
  星芒や砂漠をすべる春の蛇
  望郷第三象限の秋の虹
     宮城県田代岳(箕輪山)
  核ゴミ厳禁葷酒歓待青い山
     放射性ゐてゐ廃棄物最終処理場候補地
  一点之繞(しんねう)二点之繞かたつむり
  (ぬえ)こもる七十年談話敗戦忌
  初空やましら渡りは虚もつかみ
  絡むに幽霊は怨(ゑん)のうぜんは性(さが) 
  褻(け)に拓く中年の詩や梅雨茸
  天の川下りといふにいくうねり
  蟄虫圷戸(ちつちゆうとをふさぐ)虹の欠片は入れてある
  初泣きの赤子に侍る日と月と




★閑話休題・・・・(「句歌」第二・第三集のこと)・・・
 
「句歌」(発行人・保坂成夫)第二号・第三号が送られてきた。内容は、宮入聖の未刊句集『ろくでなし』より「出口なし」64句と65句「砂絵の富士」。保坂成夫は短歌「𩸽」「三毛猫」各25首に加えてエッセイ「貧乏ぶろぐ」が掲載されている。予告には、小海四夏夫最終歌集『一瞥』、限定50部、予価2000円、年内刊行予定とあった。
 いくつかの句と短歌を以下に挙げておきたい。
  
  黒子つけてと稚い雪女らしせがむ    宮入聖
  くる日くる日を流れ藻で通しけり
  風鈴の鳴るころあひも笠智衆
  絶叫性ニッポンニッポン症候群
  
  インスタ映へせぬ私とともに写りたるライラックの木がきのふ伐られし
                                   保坂成夫
  𩸽のひらきも高嶺の花になりたると買はで過ぎ行く下流老人
  愛なんてなくてもいいといふ歌詞に続く決まり文句を憐れむ
  今日は何の日?ジョン・ウエインがロケ地にて被爆し七十二歳で逝きたる日
  


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