2018年11月24日土曜日

山田やよひ「白帝の文鎮に日の差しにけり」(『調律』)・・


 
 山田やよひ第一句集『調律 OPUS 2001~2018』(ふらんす堂)、集名に因むと思われる句は、

  調律師遠ざかる影涼しかり   やよひ

である。序文は佐々木六戈。その冒頭に、

 俳句とは身一つの詩形である。
 ひとり立ち尽くす姿であり、たとえば「一歩も後に帰る心なし。行くにしたがひ心の改まるは、ただ先へ行く心」(『三冊子』)のみを残した。後ろ姿というよりも常に前方を向いた棒立ちの風姿というしかないもはや協同の詩の空間は存在しない。わたしたちは「歌仙は三十六歩なり」(『同』)と述べた芭蕉の詩法から限りなく遠い。わたしたちの俳句は歌仙の脇句以下を断ち切った徒歩の一歩でしかない。すなわち、俳句は一句で途絶し、沈黙する。

 に記す心ばえを、改めて思わなければなないだろう。「この徒歩の一歩は、しかし、たったひとりどこまでも歩まなければならない」(同前)のである。そのことを、著者「あとがき」は、

  「草藏」に入会して十八年、月に一度の自然詠句会や千葉市花見川の定点観察吟行句会に参加し、懸命な命の営みが為されていることに改めて気づかされた。

 と述べている。ともあれ、集中よりいくつかの句を以下に挙げておこう。

  蹼の氷の際に立ちにけり
  人の影祭提灯揺らしけり 
  墓荒れて露草の色濃かりけり
  凩の子供のこゑをしてゐたる
  落ちてゐる羽に物の音澄みにけり
  桃色の紐で括るや春の畑
  炎帝に水の緻密を掛けにけり
  戻らざるひとりびとりの草いきれ
  鳥渡る天の百会を開きけり
  刈り残すすめらみ草に風威あり
  冬の川鳥を照らして降りてくる
  人の世の仕舞ひ方など野蒜摘む

 山田やよひ(やまだ・やよい) 1949年生まれ。


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