2019年5月19日日曜日

大牧広「しんしんと遠郭公や『なぜ詠むか』」(『そして、今』)・・・



 大牧広・俳句日記2018『そして、今』(ふらんす堂)、先月4月20日に亡くなられたばかり(享年88)の大牧広の句日記である。「あとがき」の日付が本年3月10日だから、本人は、まだまだいけるという感じだったのでは、と思わせる。『大牧広前句集』が晩年の夢である、とも語っている。

   したたかな晩年の夢冬青空      広

 今年第53回蛇笏賞には、大牧広第十句集『朝の森』(ふらんす堂)が選ばれている。授賞式への参列は叶わなかったが、佳き知らせだったはずである。それにしても、亡くなられてすぐの著者の本が届くのは、一層の哀しみがある。

   百歳までも生きたい冬の水平線    

 その「あとがき」に、

  この日記、私は、あからさまに書いたつもりである。
 ただ、掲げた一句の根底への配慮の「共通項」を1%でも守ろうとした気持である。

 と記されている。ブログタイトルにした「しんしんと遠郭公や」の句には、

  五月十一日(金)
 私が勤めていた城南信用金庫の元理事長吉原毅氏は、「原発ゼロの社会を実現する」という理念で、小泉純一郎氏などと活動している。
こうした民意の「うねり」は絶やしてはならぬものだと思っている。(中略)
原発は本当に恐ろしい災いを起こす。福島県がその事実を示している。こうした理念を俳句に生かしたい、と心から思っている。

 と俳句への心情が書かれている。句のみになるが、いくつか以下に引用しておきたい。合掌。

   太箸といふ厳粛をいまさらに
   呟きは大方怒り春の昼
   昭和二十年五月の空は澄んでいた
   老いゐたる夏木にも意志ありにけり
   権力は守られ蟻は踏みにじられ
   ちさき団扇ちさき風しか出さぬ
   戦中の夏や汚れし人ばかり
   日盛りやバスは律儀に止る走る
   いまのところ生きる側にて栗を剥く
   坂がふときびしく見えて十月尽
   仙人になりたき思ひ冬銀河
   なんとなく心緊まりて大晦日

大牧広(おおまき・ひろし)1931年4月12日~2019年4月20日。東京生まれ。


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