2019年5月8日水曜日

佐藤りえ「電柱の高きに蜻蛉・泥の痕」(『探偵句集 いるか探偵QPQP』)・・



 佐藤りえ『探偵句集 いるか探偵QPQP』(文藝豆本ぽっぺん堂)、愚生の若かりし頃は、それなりに豆本も本屋で見かけることもあったが、最近ではとんと目にしない。ただ、好事家は、いつの世でもいるもので、佐藤りえは、その豆本をいろいろ作っては商っているらしい。加えて、探偵ものにはとんと詳しくない愚生にとっては、「あとがき」は、唯一の手がかり、とっかかりのようなものであるから、それをまず引用しておきたい。が、その前に、巻末には「いるか探偵QPQP 最初の事件 どどめ色の研究(抄)」などという、いささか隠語めいた掌編が置かれてある。で、その簡略な注(もしくは、あとがき風)を以下に、供したい。

  ・この本は本邦初(当社調べ)の探偵俳句である。
 「いるか探偵」冊子『GKドキュメント』(現代歌人会議活動記録』の中の「安楽椅子探偵もので、イルカ探偵っていうのを考えたんだけど」という穂村弘さんの雑談(P98)から想を得て(というか、そのまま)誕生しました。(中略)
 ・「どどめ色の研究(抄)はこの本のために書き下ろした所謂「書き下ろし小説」で本編は存在しません。いつか書かれる日がくるかもしれません。

 とある。掌編の抄出を以下に、

 QPは、水槽上部から這い上がり、阿須那君から受け取ったタオルでざっと身体をぬぐい、ヘリンボーンのジャケツに袖を通した。彼はなかなかの洒落者なのだ。
「しかし発見の状況も、死因も同じです。外傷の無い窒息死。口に松ぼっくりを含み、全身びしょ濡れで自室の真ん中に倒れている。しかし、室内には他に濡れた痕跡がなく、玄関も窓もすべて施錠されているー完全な密室です」

 ところで、句については、集中50句の中から、以下に挙げておこう。句は、先般上梓の句集『景色』(六花書林)からもいくつか収載されている。
   
  変態は顏を隠して夏の月        りえ
  抗菌の手拭いで血を拭ふかな
  D坂のだれも影法師を曳かず
  星の街玻璃のお皿の毒団子
  雪達磨に了(しま)はれているニ、三人 
  瞼に目書くかむと思ふ四月馬鹿
  首か椿か持てない方を置いて行く
  地芝居にふたりの乱歩睨みあふ
     時効まで
  かぎろひに次の名前を考へる
  木は灰に炎は森に親しめり
 
 著書『フラジャイル』(風媒社)は歌集。文藝豆本ぽっぺん堂は豆本制作の際の屋号だという。つまり、俳人にして、歌人、はたまた豆本制作者・・七つの顔を持つ女、果たしてその正体は?

 佐藤りえ 1973年、仙台市生まれ。

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