2020年12月14日月曜日

名取里美「亡魂の螢の森となりにけり」(『森の螢』)・・・


  名取里美第4句集『森の螢』(角川書店)、帯の背には「十年ぶりの新句集」とある。 

 著者「あとがき」には、


(前略)ここにいるわたしは思う。

「人も禽獣も草木も同じ宇宙の現れの一つ」という高浜虚子のことばを。

わたしたちが、コロナ禍に右往左往する間も、森の営みは変わらず、厳かにつづいていることを。

森羅万象の季語を貴ぶ俳句の力を確信する。

これからもわたしは句帖をもって森へ向かう。(以下略)


 としるされている。集名に因む句は、


  われ立てば森の螢のふえゆくも      里美

  寄つてくる森の螢や車椅子

  

 であろう。ともかく、螢にまつわる句を数えれば切りもなく多い。名取里美にとっては、螢とは同体の何かなのかもしれない。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を以下に挙げておきたい。


   地震熄まぬたんぽぽに散る硝子片

   はじまりもをはりも梅雨の海の音

   月の出やわれらヒバクシャ米を研ぎ

   月光や立てぬ歩けぬ哀しまぬ

   水俣病遺影三百青葉闇

   かの星も草の蛍もうすみどり

   闇と歩く光と歩く螢森

   冬紅葉水底になほ真くれなゐ

   大旦燦と打ちあふ川と海

   花吹雪すべてを捨ててみな踊れ

   香港の少女のゆくへ冬銀河 

   海上天心寒月光柱


 名取里美(なとり・さとみ) 1961年、伊勢市生まれ。



        撮影・鈴木純一「冬の野いちご摘むのは惜しい

                 朽ちてゆくとはなお惜しい」↑

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