榎本好宏第13句集『青簾』(角川書店)、長くはない「あとがき」に、
俳句の表現もこのところ変わってきたと思う。現代俳句を見渡して、漢語を使う句があまりにも多いことに慨嘆し、大和言葉の多用を意図的に試みた。簡単に言えば、漢語は音読みによることばだが、大和言葉の大方は訓読みの言葉で、日常使っている言葉と思えばよい。四年前の創刊した俳誌「航」の中でもしきりに主張してきたことだから、自らの作品にもそれを生かしてきたつもりである。
と言挙げされている。また本書の刊行日が本年8月15日とあるのは、著者の何らかの拘りがそうしているのだと思う。まさに、ブログタイトルに挙げた句「木槿咲くあの日よ生きて還りけり」なのだろうと、さまざま推測してみる。
集名『青簾』の由来については、「あとがき」にも述べられているが、集中の次の句にもつながっていると思う。
早よ外せ婆のひとこと秋簾 好宏
名の月の頃よ簾を外さねば
蠟塗りて簾戸(すど)の滑りも今宵から
ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
鳥帰る奈良より京へ逸れながら
魚簗掛けて父の昼寝に帰りけり
今見ねばけふ仰がねば海紅豆
このところ少しづつ色青木の実
めまとひが教へたがりし閨事(ねやごと)を
虚子に問ふ立子に聞かう蜃気楼
どの蜂に貰ひし色よ草の花
咲きそめて花に折り目や白桔梗
十六夜を例へ申さば酢の匂ひ
錦木に誰も触りて学校へ
神山の篝いよいよ去年今年
榎本好宏(えのもと・よしひろ)、昭和12年(1937) 東京生まれ。
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